人材マネジメントとは何か
はじめに、人材マネジメントの目的や意義について解説します。
人材マネジメントの重要性は広く知られていますが、「なぜ、行うのか」や「最終的な目標は何か」をまずは把握しておくことが重要です。
人を通じて仕事の成果をあげること
人材マネジメントと最大の目的は、人を通じて仕事の成果をあげることです。
「会社」という組織を作って仕事をするのは、そのほうが1人ひとりで仕事をするより効率的で大きな成果を上げられるためです。
しかし、個人が点でバラバラに仕事をしていては、組織の意味がありません。
そこで、適材適所に人材を配置し適切な仕事を割り振り、メンバーを統率していく役割が必要になります。
これが人材マネジメントです。
現在は少子高齢化により労働人口が減少しており、どの企業も人材の確保に苦労しています。
限られた人材の適性を見抜き、適材適所に配置しながら仕事を割り振っていくことは、マネージャーの重要な役目の一つです。
評価と報酬もマネジメントの一環
評価と報酬もマネジメントの重要な一環です。
単に働くだけでは、メンバーのモチベーションが保てません。
仕事をしたら制統かつ公平に評価を行ない、それに見合った報酬を渡すこともマネージャーの大切な役目です。
なお、評価というと「うまくいったときに褒める」「失敗したときに叱る」といったイメージがあります。
このほか、「失敗した場合、どうすれば同じことをくりかえさないか」といったサポートをすることも評価の一環です。
また、評価は公正であることが第一です。
私的な感情を挟まないように注意しましょう。
マネージャーが私情を挟んでメンバーの評価をすれば、それは会社への不信につながります。
人材マネジメントがうまくいけば企業は成長できる
かつて日本は年功序列と終身雇用で社員を会社につなぎ止めていた一面がありました。
しかし、現在は優秀な人材ほどフットワークが軽く、「この会社では自分の能力を活かせない」と思ったらためらわずに転職する傾向があるようです。
また、社会の変化は年々早く激しくなり、顧客からの要望や会社が目指す指標も短期間で変化していきがちです。
マネージャーは会社の業績や、世情、顧客の要望などから目指すべき目標を決め、人材マネジメントを行っていくことが求められます。
これがうまくいけば、会社は成長し続けていけるでしょう。
人材育成とはなにか
今度は、人材育成の目的や意義について解説します。
人材マネジメントとの違いはなんでしょうか?
人材育成とはメンバーを仕事ができる人間に育てること
人材育成とは、端的にいうと人材マネジメントが行なえる段階まで人材を育てることです。
会社に入社した直後から、ベテラン社員と同じようにバリバリ仕事ができる人は多くいないでしょう。
人材マネジメントは、その人に適した仕事を割り振るのが役割ですが、人材育成の場合は入社した人材を仕事ができるように育てるのが目的です。
新人教育は、人材育成の代表例といっていいでしょう。
人材育成が不十分だとマネジメントができない
人材育成を十分に行なってはじめてメンバーは、「自分がどのような仕事をしたいのか」や「自分に向いている仕事は何か」が分かります。
たとえば、入社時に「営業職につきたい」と希望を持っていた新入社員が人材育成の結果、別の部門に興味が出て結果的にそれに適性があった、といったことはよくあります。
人材育成を行わないまま人材マネジメントを行おうとしても、メンバーは仕事の意図や目標、意義を見いだせず目の前にある仕事をこなすので精いっぱいになってしまうでしょう。
モチベーションも下がりやすくなると考えられます。
新入社員には人材育成を行って仕事への理解を深めたり、仕事のやり方を教えたりすることを優先しましょう。
そのうえで、人材マネジメントを行ったほうがうまくいきます。
人材育成も人材マネジメントと同じくらい重要
人材マネジメントは、2000年代よりその重要性が認識されてきました。
その一方で、人材育成は人材マネジメントに比べると注目度が低めでした。
人材マネジメントと同一視されてきた感もあります。
たしかに、人材マネジメントと人材育成は共通する部分があります。
しかし、人材育成が十分にできないうちに人材マネジメントを行っても、十分な結果は得られません。
マネジメントを行うマネージャーは、人材育成と人材マネジメントの両方の知識を持っていることが求められます。
くわえて、時間を惜しまないことが大切です。
即戦力が欲しいからと人材育成をおろそかにすると、社員が戦力に育ち切らないうちに離脱してしまいがちです。
人材育成の3つの方法
「人材育成が大切なことは分かったが、では、具体的にどのように行って行けばいいのか」と思っている方も多いことでしょう。
ここでは、人材育成の代表的な3つのやり方を紹介します。
人材育成にこれから関わるという方は、ぜひ参考にしてください。
OJT
OJTとは、「 On the Job Training 」(オンザジョブトレーニング)の略です。
実際に業務に携わりながら仕事を覚えていく方法であり、新卒社員から途中入社の社員にまで幅広く行われています。
OJTの基本的なやり方は、以下の4つです。
OJTの基本
- やってみせる
- 説明する
- やらせてみる
- チェックする
基本的に1人の新入社員につき1人の先輩社員がついて、マンツーマンで仕事を教えます。
OJTはより実践的な環境で仕事が覚えられるメリットがある一方、指導者の質によって指導の結果が大きく左右されるデメリットがあります。
適切な指導力がある方が指導した場合は短期間で高い能力が身につけられますが、指導に不慣れな方と組んだ場合、十分な能力が身につけられない恐れもあります。
また、職場に人手が足りないと新人指導までに手が回らず、新人が放っておかれることもあるでしょう。
OJTを1対1で行う場合、新人メンバーだけでなく指導役のメンバーもマネジメントを行って均等な指導ができるようにしておくことが重要です。
Off-JT
Off the Job Training (オフザジョブトレーニング)とは、仕事場を離れて行う教育全般を指します。
一例をあげると、スキルアップトレーニングや、新入社員研修などが該当します。
新卒社員が入社すると、まずはOff-JTを行う会社も多いことでしょう。
Off-JTは、社内で行うこともあれば外部の団体に講習を依頼することもあります。
また、新入社員研修以外に管理職研修や、専門の資格を取得するための研修もOff-JTに該当します。
Off-JTは、広くビジネスや職種に関する知識を身につけることが可能です。
その一方で、会社にあまり活用できない知識もあるので、Off-JTで何を学ぶか取捨選択をすることが重要になってきます。
特に、長い歴史を持つ会社の中には、Off-JTが形骸化しているところもあるでしょう。
Off-JTに求められていることも時代と共に移り変わっています。
定期的なアップデートが重要です。
自己啓発
自己啓発とは、仕事に活用できるスキルをメンバーが自分で取捨選択して取り組んでいく自己育成です。
OJT・Off-JTが一通り終われば、新卒のメンバーであっても仕事の意義ややり方が分かってきます。
OJT・Off-JTで身につけられなかったスキルをマネージャーが明確にすることで、自己啓発のとっかかりがつかめるでしょう。
自己啓発ができる段階までくれば、人材育成から人材マネジメントへ移行しても問題ありません。
ただし、新卒の場合は自己啓発がうまくいかないことも多いです。
人材マネジメントよりマネージャーが目を配ってあげましょう。
必要ならば、マネージャーが課題を複数与えてその中からメンバーに選ばせる方法などを取ります。
人材育成とマネジメントを混合しないための注意点
ここでは、マネージャー向けに人材育成と人材マネジメントを混合しないコツを紹介します。
どのような点に注意すれば、人材育成と人材マネジメントを使い分けられるのか知りたい方は、ご活用ください。
人材マネジメントと人材育成をうまく使い分けることができれば、新卒のメンバーの育成からベテラン社員のマネジメントまで幅広く行なえます。
最初から自分で考えさせない
人材マネジメントの重要な目的の一つに、自主的に動く社員の育成があります。
マネージャーからの指示を待つだけの社員は、自分から成長できない傾向があります。
そして、自主的に動けるようになるには、基礎知識が必要です。
たとえば、「メールチェックは小まめにすることが重要」とメンバーが自主的に気がつくには、メール中には緊急を要するものがあることや、メールチェックをまとめて行うことにより、作業に集中できる時間を作るメリットがあることなどがあげられます。
しかし、メールチェックの必要性が分からなければ、この考えは思いつきません。
「メールで仕事の指示が行われることもある」という仕事の基礎知識が必要です。
マネージャーが最初に基礎知識をしっかり教えてこそ、社員の自主性が育ちます。
自主的に動く社員を育成したい場合は、OJTをしっかり行ったうえで小さな判断から任せてみましょう。
成功体験はメンバーに自信を与えます。
ただし、仕事を指導する際に自分のやり方を一方的に押しつけないように注意しましょう。
仕事をスムーズに行う方法はメンバーごとに異なります。
会社独自のやり方がある場合は、マニュアルを作ってマネージャーの間で共有しましょう。
目標設定は適切に
人材マネジメントの指導方法に、「自分で目標を立てさせる」があります。
自分で目標を立てれば計画が立てやすく、成し遂げたときに達成感も得られます。
成長途中のメンバーには、少し高めの目標をマネージャーが与えることで成長のきっかけをつかめるでしょう。
しかし、高く飛ぶには土台をしっかり作っておかなければなりません。
人材育成のときは、あまり高い目標設定をしないように指導しましょう。
無理な目標設定はメンバーのモチベーションを低下させる恐れがあります。
また、目標が達成できないときの指導方法も大切です。
目標はノルマではありません。
達成できないからと頭ごなしにしかっては、メンバーは萎縮して成長できません。
なぜ、「この目標を立てたのか」「どこに失敗要因があると思うか」「それをクリアするにはどうすれば良いのか」などを、人材育成を行っているうちに指導しましょう。
そうすれば、メンバーも目標の立て方のコツがわかってきます。
仕事の全体像などは最初から伝える
人材育成を受けているメンバーができる仕事は限られています。
大きな仕事に関わっていても、できることは末端の作業のみといったこともあるでしょう。
仕方がないことですが、新卒メンバーや中途入社のメンバーが数少ない場合は疎外感を覚えることがあるかもしれません。
新卒社員は社会人としての経験は少ないですが、理解力は同等にあるはずです。
そのため、新卒のメンバーにも今自分が関わっている仕事がどのようなもので、最終的にどのように会社の利益につながっていくのか、説明をすることが大切です。
特に、OJTを行う際にしっかりと説明することで責任感も沸いてきます。
また、説明を行えばOJTを受けながら会社の仕事の流れも理解できることでしょう。
マネージャーは新卒社員の理解力を測りながら、仕事の説明をしていくことが重要です。
そのためには、新卒社員とのコミュニケーションを密することも大切です。
まとめ 人材育成と人材マネジメントを使い分けよう
今回は、人材育成と人材マネジメントの違いや使い分け方を紹介しました。
2000年代の初め、就職氷河期と呼ばれた頃、リストラなどによって社員が減った結果、人材育成がおろそかになって土台が揺らいだ企業も多かったのです。
人材マネジメントは2010年代以降に注目を集め始め、いまや多くの企業がその重要性を認識しています。
しかし、人材育成ができていないうちに人材マネジメントを行っても望むような結果は得られません。
人を育てるには時間がかかります。
人材マネジメントを意識的に実施してもうまく成果に結びつかなかったと悩んでいるマネージャーの方は、メンバーの成熟度合いをもう一度振り返ってみましょう。
場合によっては、人材育成からもう一度行ったほうがよい場合もあります。