メンバーのために実施される1on1ミーティング
1on1ミーティングは、人事的な評価を伝える面談とは違います。
そのことについてマネージャーはあらためてはっきりと認識し、メンバーにも説明するとメンバーの納得度にも差が出てきます。
また、所属している企業に対していかに貢献できているかも、メンバーの納得度には大きく関わってくる要素の1つです。
1on1ミーティング中の話の題材に困っている企業もあるといいます。
以下の内容を話題にしてみるのはいかがでしょうか。
1on1実施の目的
1on1実施時に企業やマネージャーは、メンバーのリフレクションと精神面をサポートします。
1.リフレクション(内省)のサポート
1on1では、メンバーに前回の業務をリフレクションしてもらいます。
そして、リフレクションから気づきを得て、より高い次元の考え方ができるようになってもらうためにサポートするのです。
2.精神面のサポート
具体的には、以下の3点などにおいて困っていることなどがないか確認。
あればサポートします。
- 実際の業務
- 業務を遂行するうえで、関わりのある他者との関係性
- 職場の環境
ここまでの説明で、貴重な時間を割いてでも1on1を実施する企業の意図が、おおよそでも見えてきたのではないでしょうか。
企業側はつまるところ、メンバーのできるかぎり早期の成長を大きな目的としているのです。
リフレクションや精神面のサポートを受けたメンバーの成長スピードは、上がります。
さらに、1on1は週に1回なり、月に1回なりの高い頻度で、実施されるのが通常でしょう。
1on1導入前と比べて、成長スピードが増していることをメンバーは実感できるため、その成長スピードには加速度がつきます。
各企業が1on1に関心を寄せる理由
経済的な活動を営む企業が1on1に注目するのには、理由があります。
利益を追求するのが企業です。
1on1の導入で期待できるメリットが、小さくはないことが理由としてあるのはもちろんでしょう。
しかし、社会的な背景も関わっていました。
企業を取り巻く環境が変化し、その中でメリットを追い求めた結果が1on1への着目だったのです。
社会的な背景
次の(1)~(3)の社会的な背景が、わが国にはあります。
(1)労働者の人口減
日本の出生者の数が年々減っていることについて、知らない人はもはやいないでしょう。
少子化ペースが、むしろ加速しているという報道すらありました。
将来、労働者の人口が減っていくことはあっても、増えることはありえません。
一方、かつては当たり前とされた年功序列や終身雇用の制度は、崩壊したも同然になってしまいました。
労働者はためらうことなく、転職するようになっています。
いかに長い期間にわたって自社で働いてもらえるかが、重要になってきたのです。
従業員とのコミュニケーション増加から、企業に対するエンゲージメントの向上が見込まれる1on1に期待が集まっています。
(2)国や企業が進める方針についていけない人の増加
働き方改革・コンプライアンス(法令の順守)は、国が推進しています。
また、社会的な信頼の失墜を憂慮するようになった企業は、コーポレートガバナンスの強化に動いています。
例えば、働き方改革の影響は、物流の世界にも及んでいました。
ニュースなどで、“物流業の2024年問題”が報じられているのを見聞きしたことはないでしょうか。
2024年4月1日以降、トラックの運転手たちの時間外労働時間が、1年当たり960時間までに制限されます。
コンプライアンスを厳密に求められるようになった昨今、法律によるこの制限を無視しての経営はできないでしょう。
これまでその事業者が経営する企業で働いていた運転手は、労働時間を減らされることから収入も減ってしまいます。
こういった環境の変化に対応できない従業員が、悩みを抱えるようになるのは不思議なことではありません。
1on1を実施している企業なら、従業員の悩みを早期に把握できる可能性が高まります。
(3)予測のできないビジネス環境
2010年代より前の時代に、リモートワークの広がりなど、誰が予測し得たでしょう。
現在は、“VUCAの時代”といわれています。
次の英単語4つの頭文字から、つけられた名称です。
Volatility(不安定さ)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(あいまいさ)
先の見通しが利かない難しい環境下を、企業は生き抜いていかねばなりません。
そのためには、従業員それぞれの成長が不可欠です。
1on1は、従業員の成長に貢献できるマネジメント手法です。
期待できるメリットの大きさ
1on1実施で得られるメリットには、次の2つが考えられます。
(a)離職率の低下
1on1の実施によりメンバーのモチベーションは上がり、属する企業へのエンゲージメントも上昇します。
企業Aで働くマネージャーBさんは、メンバーCさんとの1on1ミーティング中に、業務へのモチベーションを低下させている要因を知りました。
企業Aは、その要因を改善。
すると、20%あったチーム内メンバーの離職率が、0%になったといいます。
自身の考え方を受け入れてもらえたメンバーのモチベーションアップが、好結果の要因です。
(b)マネージャーとメンバー間の信頼感が向上
1on1が実施されていない企業では、マネージャーとメンバー間の心理的な距離が開いているのではないでしょうか。
特にメンバーが、本音をすべてマネージャーに伝えるのは難しいでしょう。
1on1は一定の期間ごとに、実施するのがよいとされています。
1on1実施の回数が増えるにしたがって、それぞれを理解できるようになり、2者の心理的な距離が縮まるからです。
心理的な距離が縮まった者同士の信頼感は高まります。
信頼感が高まれば、例えば、マネージャーの評価に対するメンバーの不満が少なくなることなどが期待できます。
取るに足らないと思われる情報の共有にも、抵抗はなくなるでしょう。
たとえアリの一穴のように見えても、それをふさぐ作業を日々積み重ねることが重要です。
1on1で効果を発揮するフレームワーク
1on1を効率化させるフレームワークの数は、非常に多いです。
以下に紹介しているものは、それらのすべてではありません。
中でも大きな効果を期待できるものや、基本的なものを優先して紹介しています。
ただでさえ効果の大きい1on1をこれらのフレームワークも併せて実施すれば、得られる効果をただちに実感するようになるでしょう。
目標の設定に有効なフレームワーク
適切な目標を設定できたときとできなかったときでは、メンバーの成長に差が生じます。
メンバーと企業、どちらにとってもプラスとなる目標が“適切な目標”です。
適切な目標の設定ができなければ、自身への評価に対して、メンバーが心から納得することはありえません。
SMART
目標の設定に役立つフレームワークとして、非常に有名です。
設定する目標をどういったものにするべきか、次の5つの形容詞(英単語)を用いて考えます。
- Specific(明確な、具体的な、はっきりとした)
- Measurable(測定の可能な)
- Achievable(達成の可能な、成し遂げられる)
- Related(《経営上の目標に》関連した、関係のある)
- Time-bound(時間的な制約・制限のある)
例えば、“今年度の末日までに売上の金額が1億円を超えるよう、より積極的なクロスセル(関連する商品やサービスの販売)に務める”という目標をメンバーが立てたとします。
Specific・Measurable・Time-boundの3条件は、いずれも満たしていると考えていいでしょう。
残る2つの条件が満たされているかどうかは、メンバー本人の能力やチーム(組織)の置かれた環境にもよります。
1on1でマネージャーとメンバーが2人で相談し、問題がなければ、特に変更する必要はないでしょう。
SMARTについては、次の記事も参考になります。
参考:『マネージャー向け|目標設定の方法と達成するためポイントを紹介』
ベーシック法
目標を設定する際の基本となるフレームワークです。
目標を設定するときに使われるフレームワークは、ほかにも多くあります。
それらを理解する際の、礎になると考えていいでしょう。
次の4つのフェーズ(段階)を踏むことで、メンバーの成長に対する目標の詳細度を上げます。
- 目標とするものの設定
- 目標をクリアできたとする基準の具体化
- クリアまでの期限を具体化
- 目標をクリアするための計画や方法の具体化
1の時点では、かなり大ざっぱな目標でも問題ないでしょう。
2以降で精度を上げるからです。
例えば、“英会話の習得”くらいでもかまいません。
仮に2で、“実用英語技能検定1級合格”としたとします。
現在の自身の英語レベルと照らし合わせれば、勉強に要する時間の目安はネット情報などからつけられます。
その目安を元にすれば、3が可能となるでしょう。
終業後・週末・オンライン学習などといった候補から、勉強のために確保できる時間帯を検討。
英語の学習を研修などで自社によりサポートしているのなら、それを使うのも1つです。
同様の方法で進めれば、4を終了させるまでに、それほど長い時間は要しないでしょう。
勤務している企業の現状を共有するときのフレームワーク
マネージャーとメンバーが現在働いている企業の現状について、1on1での話題とするのも有効です。
3C分析
Customer(市場や顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の3要素から、自社の戦略を導き出すフレームワークです。
マッキンゼーの元日本支社長で、現在は経営コンサルタントとして活躍している大前研一氏が提唱しました。
大前氏が著書“The Mind of the Strategist”で提唱したこの概念は、世界的にも有名です。
日本でも、取り入れはじめている企業が増えています。
Customer(市場や顧客)のニーズを把握し、Competitor(競合)の動向を分析、Company(自社)との関係性をはっきりとさせます。
つまり、分析の順序は、Customer(市場や顧客)⇒Competitor(競合)⇒Company(自社)です。
PEST分析
3C分析において、Customer(市場や顧客)をマクロな視点で分析するときに使えるフレームワークです。
自社を取り巻く環境を、Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)という4つの要素で分析します。
各要素の具体例は、以下のとおりです。
なお、4であげている項目については、時代により大きく変わってきます。
- Politics(政治)⇒法律の改正・政権の交代・補助金の交付など
- Economy(経済)⇒景気の動向・金利・株価など
- Society(社会)⇒ライフスタイル・流行・少子化など
- Technology(技術)⇒AI・ブロックチェーン・IoTなど
5F分析
同じく3C分析する際に、Customer(市場や顧客)をミクロな視点で分析するときに使えるフレームワークです。
アメリカの経営学者マイケル・ポーター氏が提唱しました。
“F”は、Force(影響力・強い効果)の頭文字です。
“Force”は、自社に大きな影響を及ぼす以下5つの要素を指しています。
- 競合する他社の脅威
- 代替品の存在による脅威
- 新規に参入してくる他社の脅威
- 買い手(購買者・バイヤー・顧客)の交渉力
- 売り手(製品の供給者・製品の製造者・サプライヤー)の交渉力
各要素の力が強いほど、自社の収益性は低下します。
4と5の“交渉力”の意味が、わかりにくいかも知れません。
“買い手の交渉力が強くなるとき”とは、自社の製品と競合する製品を売る他社の数が多いときです。
類似した製品が市場に多ければ、買い手の交渉力は強くなります。
すると、自社が市場に投入する製品の売れ行きは鈍化します。
“売り手の交渉力が強くなるとき”も同様の考え方で、理解が可能でしょう。
製品や原料を自社に供給する売り手側が、有利に交渉を進められるのです。
自社の収益性にとっては、マイナスに作用します。
メンバーの成長スピードを加速させるフレームワーク
メンバーのために実施するのが、1on1ミーティングです。
成長スピードが上がっていることを実感できれば、メンバーも納得でしょう。
経験学習モデル
成長を促進できるフレームワークです。
組織行動学者のデービッド・コルブが、提唱しました。
下図の順で、メンバーの成長を促します。
(1)具体的な経験
経験学習モデルのフレームワーク導入時には、メンバーの“具体的な経験”からはじめます。
原文では、“Concrete Experience(具体的経験)”とされているフェーズです。
(2)リフレクション(内省)
(1)で獲得できた具体的な経験を、よかった点もよくなかった点も合わせて振り返ります。
よくなかった点ばかりを振り返ろうと反省する人も、少なくはないでしょう。
しかし、反省とは違うのです。
原文で“Reflective Observation(省察的観察)”とされているこのフェーズでは、反省ではなく、リフレクション(内省)することがポイントです。
(3)教訓を導き出す
原文では“Abstract Conceptualization(抽象的概念化)”とされています。
“セオリー化”や“持論化”などと、訳されるケースもあります。
経験学習モデルの研修では、参加者の多くが悩むフェーズです。
自身の視点を、新たに加えても問題ありません。
誰にでもわかるような形で、新しい理論を構築するつもりでいいのです。
(4)教訓の実践
“Active Experimentation(能動的実験)”という言葉が、原文では使われています。
“試行”や“行動”などの日本語で、置き換えられているケースもあります。
このフェーズで、(1)の具体的な経験が得られるでしょう。
次の記事には、リフレクションの詳しい説明があります。
参考:『育成に効果的なリフレクションが注目の的!やり方もくわしく解説』
この記事を参考にして、よりハイレベルなリフレクションを目指すのもいいのではないでしょうか。
参考:『リフレクションシート作成に役立つ14のビジネスフレームワーク』
1on1の時間を捻出するために効き目のあるフレームワーク
たしかに1on1は、自社にとってプラスの効果をもたらす強力なフレームワークです。
しかし、実施にはマネージャーとメンバー、ともに時間が必要です。
ほとんどのビジネスパーソンは、忙しい日々を過ごしているのではないでしょうか。
次に、時間をつくり出すためのフレームワークも紹介します。
アイゼンハワー・マトリクス
タスクを次の図のような4つの象限に分けます。
“アイゼンハワー”とは第34代アメリカ大統領ドワイト・D・アイゼンハワー(1890年~1969年)のことです。
陸軍大将から大統領まで登り詰めたアイゼンハワー氏が、このフレームワークでタスクを管理していたことから命名されました。
彼は演説中(1954年)に、次の2点について言及しました。
- 緊急度の高いタスクの重要度は高くはない
- 重要度の高いタスクの緊急度は決して高くはない
第1象限に分類されたタスクから着手すべきなのは、ただちにわかるでしょう。
アイゼンハワー元大統領が演説中に言いたかったことは、第1象限の次に優先すべきは第2象限に分類したタスクということです。
仕事で結果を簡単には出せない人は、第2象限よりも第4象限のタスクを優先していないでしょうか。
まとめ フレームワークを使って1on1の効果アップ
1on1を単独で用いる場合でも、用いないときと比べて大きな効果を期待できます。
その1on1実施にフレームワークを用いれば、組織にさらなるプラスの効果がもたらされることは、容易に推測できるのではないでしょうか。
また、1on1の実施時に用いることで、さらなるプラスの効果を期待できるフレームワークは、これのみではありません。
ほかにも多くあるそれらのフレームワークを使いこなせば、非常に大きなメリットが組織にもたらされるでしょう。