やり方を考える前に“リフレクション”の正確な理解
1933年にはすでにリフレクションのもととなった考え方が生まれていたアメリカでは、リフレクションが定着しています。
のちにリフレクションへと進化する“Reflective Thinking”を提唱したのは、コロンビア大学教授で哲学者のジョン・デューイ(1859~1952年)でした。
さらに50年後には、マサチューセッツ工科大学教授で哲学者のドナルド・ショーン(1930~1997年)が提唱した理論“行為の中の内省(査察)”の礎ともなった考え方です。
リフレクション=内省
reflection(リフレクション)を『ジーニアス英和辞典 第5版』で引いてみると、いずれも1つ目の項目では“鏡の中や水面などに映る映像や姿” とされています。
2つ目の項目でも、真っ先にあげられているのは反射です。
鏡や水面に主観はありません。
主観を排し、客観的に自己の言動や考え方をありのままに深く顧みることがリフレクションです。
日本語なら“内省”が、リフレクションを表す言葉としてはふさわしいでしょう。
正しいことも誤っていることも両者差をつけずに、等しく顧みるのが内省の正確な意味です。
また内省に代わって、省察という言葉が使われることもまれにあります。
内省と内観の違い
仏教が由来の言葉“内観”も、内省とほとんど同じ意味ですが、厳密には異なります。
自己の精神面の観察が、内観では重要視されます。
内省より以上に、心の深部に接近するのです。
リフレクションと反省の違い
内省に似た言葉には、“反省”もあります。
反省には、正しいことを顧みる意味は含まれていません。
誤っている点についてのみ顧みて、正すのが反省です。
PCキーボードのタイピングミスを原因として生じたトラブルなどが、いい例でしょう。
「今後はより慎重にタイピングしよう」「タイピング練習用の書籍を購入しよう」などと、次のアクションも決めやすいのではないでしょうか。
ところが、良否のはっきりしないときは、少なくありません。
また、いくら業務がうまく進んで問題なく完結できたとしても、終了までの過程で問題がまったく生じなかったケースはまれでしょう。
結果の良否は問わず、すべての経験を思い返し、「あのときの考え方は正しかったのか?」と自己を顧みることがリフレクションです。
リフレクションとフィードバックの違い
フィードバックでは客観的な俯瞰・分析・評価をする人物と、それらの結果から改良や調整を施される人物は、まったくの別人物です。
マネージャーがメンバーにフィードバックしている光景は、一般的によく見受けらるのではないでしょうか。
一方、リフレクションは自己の客観的な俯瞰・分析・評価で改良や調整を図ることです。
リフレクションのすべてが、メンバーならメンバー1人の中で完結します。
リフレクション導入によるメリット
リフレクションが注目されているのは、導入によるメリットが大きいからです。
注目を集めているのは、ビジネスの世界のみではありません。
過去に10度も大学ラグビーNo.1の座に輝いた帝京大・岩出監督も、リフレクションを取り入れていました。
日本経済新聞も報じていたため、ビジネス界でのリフレクションへの注目度もより高まったのです。
企業の生産性アップ
1on1ミーティングでフィードバックしている企業が、一般的には多いでしょう。
しかし、フィードバックで主体的に俯瞰・分析・評価をするのはフィードバックする側の人です。
十分な話し合いがなされているはずですが、フィードバックされる側の人が考える部分の大きさは、リフレクションと比較すると圧倒的に小さいのです。
自己の改善を人任せにはしないリフレクションでは自律性が養われ、より以上の能力アップにつながります。
個々の従業員が自律できている企業の総合力は、非常に強くなります。
環境の状況に応じて、瞬時に的確な判断ができるため、たとえ環境が変化したとしても即座に適応が可能です。
環境が企業にとってよくない方向に変わったときにでも、生産性の低下する時間を抑制できます。
指示待ちもなくなり、リフレクションを導入しなかったケースと比べて、長期的な観点では生産性アップが見込めるでしょう。
以下の記事で、1on1ミーティングについてもう1度おさらいしてみるのもいいのではないでしょうか。
『マネジメントにおける1on1ミーティングの役割・活用法を徹底解説』
『【第1回目】revii事業責任者が語る1on1ミーティングの本質と実施目的とは』
リーダーシップを発揮できる人材の育成
組織の総合力アップに手応えを感じた従業員は自信を持ち、成長のスピードに加速度がつきます。
自律して、しかも加速度的に成長した従業員は、やがてリーダーシップを発揮するようになります。
企業や組織を全体から客観的に、俯瞰できるように成長した従業員です。
組織を引っ張っていくにふさわしい人材となっているはずです。
また、周囲のメンバーとは、日ごろの会話も多いでしょう。
リーダーシップを備えた人材は、ほかのメンバーにとって身近なリフレクションの師ともなり得ます。
長所のさらなる伸長
従業員の長所を伸ばすことは、短所を克服するよりも優先するべきです。
なぜなら、長所が伸びれば自信がつき、短所も克服できる可能性が高まるためです。
よくなかった点ばかりを顧みる反省と、リフレクションは違います。
長所の伸長から短所の克服が可能な点に気づいた従業員は、業務のみならず、プライベートにもリフレクションを取り入れるようになるでしょう。
業務もプライベートも充実した従業員の、企業に対するエンゲージメント向上にも期待が持てます。
リフレクションの具体的なやり方
ビジネス書に、フレームワークと書かれているのを見たことはないでしょうか。
ビジネス上の課題を克服したいときに、役立つ考え方の枠組みがフレームワークです。
考え方以外にも、効率化を実現するツールをフレームワークと呼ぶときもあります。
ビジネスの現場では多数のフレームワークが使われており、それぞれに特徴があります。
自社にふさわしいフレームワークを見つけるのがポイントです。
リフレクション実践のフレームワーク(枠組み)
リフレクションのフレームワーク4つを紹介します。
KDA
以下3つの単語の頭文字から、名称がつけられています。
- Keep(保つ・続ける・維持する)
- Discard(捨てる・処分する)
- Add(加える・付け足す)
リフレクションで、今後も続けていくべき業務のやり方などを見つけるのが“K”です。
取り入れるのは、今回までとする業務のやり方などをリフレクションで見つけるのが“D”。
新たに付け加えるべき業務のやり方などを、リフレクションで見つけるのが“A”です。
見つかったものを書き出すのがいいでしょう。
記憶や気づきを、芋づる式に引っ張り出せます。
書けば、明確化と記憶への定着も促されます。
KPT(ケプト)
K=KeepはKDAと共通しています。
- Keep(保つ・続ける・維持する)
- Problem(問題・課題)
- Try(試みる)
KDA同様、“K”では、今後も続けていくべき業務のやり方などをリフレクションで見つけます。
“P”では、リフレクションにより問題点を見つけます。
見つかった問題点の改善を“T”で試みます。
チーム内での話し合いでは、3つ目のTryを中心にするのがおすすめです。
1回のリフレクションで、すべての問題点が解決するのは非常にまれでしょう。
1度のTryで完全なる問題点の克服までを目指すのではなく、少しずつ歩を進めていくイメージを持つことが大切です。
目の前の短期的な目標クリアを積み重ねながら、もともと目的としている大きな課題や問題の克服を目指すのです。
YWT
日本能率協会コンサルティングが開発したフレームワークです。
日本語の頭文字から名付けられました。
- Y(やったこと)
- W(わかったこと)
- T(次にやること)
YWTの目的は、自律した従業員の育成です。
1人ひとりの個性を大切にし、それぞれの従業員が持つポテンシャル(潜在的な能力)を信じれば、YWTに本来備わっているリフレクション効果を存分に引き出せます。
さらに、YWTにより得られたリフレクション効果の情報を組織内で共有すれば、組織の成長にも結びつくのです。
経験学習モデル
デービッド・コルブ(組織行動学者)が、1984年に提唱しました。
一般的な学習モデルは、受験勉強に近いと考えていいでしょう。
教えられた知識を覚える、いわば受動的な学習の方法です。
経験学習モデルは違います。
学習者の経験からはじまる、すべてのプロセスが能動的な方法です。
終わりなきサイクルで、5つ目のプロセスで1の経験に戻ります。
- 経験する
- リフレクションする
- 教訓を獲得する
- 試行する
- 1に戻る
段階的な実践
リフレクション実践のフレームワークをいくつか紹介しましたが、実践にはそれぞれに若干異なるやり方があります。
個人で実践するケース
経験学習サイクルには、リフレクションがスタートから2つ目のプロセスに入っています。
経験学習モデル以外のフレームワークでは、以下の7つをプロセスとするサイクルでリフレクションとフレームワークを活用するのがおすすめです。
- 業務中に経験したことのすべてを対象に、リフレクションをはじめる
- 関わった人たちや当時の状況をリフレクションする
- 理想と現実の差をリフレクションする
- 結果の良否にかかわらず、原因についてリフレクションする
- 使う予定のフレームワーク(経験学習モデル以外)で選び出す項目を文字にする
- 5をもとにして、今後の目標を設定する
- 1に戻る
マネージャーがサポートするケース
リフレクションには、自律性を養う目的もあります。
従業員が、個々に実践するのが理想的です。
しかし、正しいリフレクションを身につけてもらう意味からも、慣れないうちはマネージャーなどがサポートしながらはじめるのがいいでしょう。
経験学習の権威といえば、『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』の著者・松尾睦教授(北海道大学大学院経済学研究院)が有名です。
メンバーのリフレクションを促すために育て上手のマネージャーは、次の3つのフェーズで対応していることをこの著書の中で明記しています。
- 事実の確認⇒「何が起こったのか?」と問いかける
- 共感⇒メンバーの感じたことに、うなずきながら耳を傾ける
- 評価⇒原因と今後の対策を、メンバーと一緒に考える
ほかのメンバーも加わるリフレクションのやり方
従業員が1人でリフレクションするケースでは、本人の性格・考え方・価値観・置かれた環境などに、左右されるケースが少なくありません。
「客観的に」と言われてはいても、完全に主観を排除するのは難しいのが人間です。
主観を払拭するには、ほかのメンバーとリフレクションを共有するリフレクション・ミーティング(会議)が効果的です。
組織の枠を超えたプロジェクトが実施されるケースも、企業によってはあるでしょう。
プロジェクトをともにしたメンバーが集まって、それぞれのリフレクションを発表し合うのです。
ほかのメンバーのリフレクションを知れば、偏見が是正される可能性が高まります。
また、ある程度の頻度でリフレクション・ミーティングが実施されるなら、新たな気づきを得るケースも多くなるでしょう。
各メンバーの意識の大きな変革から一体感が高まり、エンゲージメント向上につながるケースもあります。
リフレクション教育を実践する上での注意点
高い効果の見込まれるリフレクションですが、注意点もあります。
十分な時間が必要
リフレクションには、じっくりと時間をかける必要があります。
従業員を突然呼び出し、わずか数分で終わらせるのは不可能です。
“Reflective Thinking”の提唱者デューイも、リフレクションにかける十分な時間の確保を説いています。
リフレクション実践のための時間を、意識して予定に組み入れるようにするのがいいでしょう。
時間的に本業で精いっぱいの企業が、大半かもしれません。
しかし、個々の従業員がリフレクションにより自律性が養われれば、組織や企業の活動スピードが上がるのです。
結果のよしあしは無関係
いい結果が出たことも、よくない結果に終わってしまったことも、差をつけずにリフレクションする必要があります。
過去について顧みるときには、多くの企業で反省という言葉が使われてきました。
リフレクションについてはじめて知った企業がリフレクションをはじめた当初には、いい結果が出たことにリフレクションの対象が偏りがちとなるケースも考えられます。
しかし、これもよくありません。
結果のよしあしは、まったく考えないようにするのがポイントです。
リフレクションのやり方確立の次は習慣化と継続
20世紀の半ばからリフレクションの考え方が生まれはじめたアメリカとは異なり、過去を振り返る際には、反省という言葉がよく使われるのが日本です。
よくない点のみを拾い出して、振り返るのが反省です。
リフレクションのやり方を、入社したての従業員を対象とした研修などで伝えるのみでは、定着させるのは難しいのが現実ではないでしょうか。
1on1ミーティングなどを通じて、習慣化し、さらには継続させる必要があります。