企業理念とは
企業理念とは、企業の存在意義や根幹の考え方を言語化したものです。
企業が経営し事業を営むうえで重要視する価値観で、社員の行動規範や社風形成の基となります。
企業は、企業理念を明確に掲げ社内の浸透を行い、企業活動に反映させる必要があります。
このように、企業理念を社員全員が体現し続ける取り組みが重要です。
企業理念と経営理念の違い
ビジネスでは、理念と呼ばれるものには企業理念と経営理念があります。
意味が似ているため同義で使用されている企業は多くありますが、厳密には下記のような違いがあります。
企業理念
企業理念は、企業の設立した経緯や存在意義や社会的役割をあらわすものです。
利益にとらわれない自社商品やサービスの付加価値など、企業として社会に貢献する未来像を掲げる場合が多いです。
企業の一貫した信念としてあらわされ、外的要因に影響を受けにくい組織の形成を目指します。
経営理念
経営理念は、経営に対する考え方や目標、企業活動の方針を示したものです。
経営の軸は、主に利益拡大や顧客満足度の向上を目指した内容が多く掲げられます。
経営は、社会環境などの影響を受けるため状況に応じ、経営理念も柔軟に変化が求められます。
最近では、SDGs(持続可能な開発目標)やMDGs(ミレニアム開発目標)、ESG(環境・社会・ガバナンス)など国際的な目標や新しい基準が取り入れられる傾向が多いです。
理念を浸透させる必要性とは
企業において理念が浸透していると、社員が働く意義を見いだせます。
社員全員の方向性が定まるため、個々の身勝手な行動が減少できます。
また、理念の浸透によりモチベーションが高まり生産性が向上するため、企業として持続的な成長が期待できるでしょう。
さらにリモートワークが普及した現代では、より理念の浸透が不可欠です。
企業理念を社員に浸透させると、目的と行動基準の明確化により自律的に行動するため、管理範囲外でも自発的に質の高い業務を行うようになります。
また社員の入れ替えが頻繁な企業は、人材教育に十分なコストをかけられず、丁寧な社員教育の提供の場も減少するでしょう。
企業理念が定着していると、離職率が低くなり長期に渡り活躍する社員が育成できます。
このように、企業理念を社員へより浸透させる取り組みが必要です。
さらに、企業理念は、社内だけ共有するだけでなく外部にも発信すると、同じ志を持った人材が入社を希望するため、自社にマッチした人材採用が可能となります。
企業の理念浸透がうまくいかない理由
企業にとって理念浸透はなくてはならないものであり、国内企業の大多数は、理念浸透の取り組みを行っています。
しかし、ほとんどの企業で思うように進んでいないとされています。
HR総合調査研究所の調べでは、企業理念が社員へ浸透していると認識している企業は、6%にすぎません。
やや浸透している36%と合わせても、全体の5割を満たしていないのが実状です。
引用:HR総合調査研究所『「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告』
では、企業の理念浸透がうまくいかない原因はどこにあるのでしょうか。
企業理念を定めるだけで機能していない
企業理念を策定するには、創業者の思いや経営に対する歴史などが込められています。
さらに事業拡大するなかで、理念は明確になり意味づけがされていきます。
しかし、創業者や経営陣のみが理解しているだけでは、理念策定の意味がありません。
まずは、社員の共感を得られる理念の策定が重要です。
理念の内容がわかりにくい
共感を得られる理念を策定しても、難しい言葉やわかりにくい表現であれば浸透しづらくなります。
また、抽象的であいまいな文言も、一度説明を受けただけでは社員は覚えておらずそのまま忘れてしまうでしょう。
そのため、誰でもわかる言葉や覚えやすいフレーズの使用をおすすめします。
社員へ周知の取り組みが不足している
社員への周知が不足している企業も多数見受けられます。
理念を一度伝えるだけでは、なかなか社内に浸透できません。
そのため定期的に繰り返し伝え、企業理念の存在を意識しててもらう取り組みを行いましょう。
習慣化ができていない
企業理念の浸透には、習慣化が求められます。
ただし、一方的な押し付けやアナウンスのように聞かされてるだけでは社員の理解まで得ることはできません。
理念に込められた思いや背景を伝えることで、社員の理解や共感を促すことが大切です。
理念を浸透させる4つのステップ
理念浸透を成功させるために、企業は日々工夫をしています。
そもそも企業においてどのように理念を浸透させればいいのでしょうか。
ここでは段階別に理念を浸透し定着させるまでのステップをご紹介します。
理念浸透のステップ
- ステップ1:わかりやすい理念の策定
- ステップ2:理念に基づいた社員の共感を得る
- ステップ3:理念に基づいた社員の行動を促す
- ステップ4:理念を習慣化する
ステップ1:わかりやすい理念の策定
創業者や社長、経営陣が企業に掲げる理念を策定します。
それぞれの想いを自らの言葉で表します。
手順は下記の3つです。
こだわりの商品やサービスなど、自社が大切にしている部分についてわかりやすい言葉をいくつかあげる
企業の将来をイメージし、事業規模や事業展開についてどのようにありたいかを考える
上記の2点をまとめ、企業の信念と今後の目標をわかりやすい言葉で言語化する
このように自社にふさわしい理念を時間を掛けて決定し、場合によっては専門家を招いて策定してもよいでしょう。
企業理念は、外部にも提示するため取引先からも注目されます。
自社の強みや特徴、目標など自社の発展が見込めるような将来性のある内容にすると、信頼関係の構築につながるでしょう。
ステップ2:理念に基づいた社員の共感を得る
策定した企業理念は、意味や想いを社員に繰り返し伝え、まずは意識してもらいます。
社員は、自分の業務と理念の結びつきを理解すれば、共感を得られます。
そのためマネージャーは、メンバーが理念に沿った行動を取った際は、常に言葉を掛け褒めることでより理解を深めましょう。
ステップ3:社員に理念に基づいた行動を促す
まず、社員に理念に基づいた、企業の理想像を社内全体の共通認識として理解してもらいます。
理念に対し誤解や誤認がないように、企業が求める社員の姿を詳細に定めることが重要です。
社員が、理念に基づき行動しているかは、人事評価のチェック項目に設け、自己評価でも確認できるようにしましょう。
マネージャーは、メンバーが定期的に理念を意識し基づいた行動ができているか1on1ミーティングのなかで、会話に取り入れると効果的です。
ステップ4:理念を習慣化する
社員が理念を理解し行動や判断に表れるようなれば、次にそれらを習慣化させる取り組みを行います。
理念が定着すると、マネージャーの指示がなくても社員が自主的に自社にふさわしい行動ができるでしょう。
さらに、理念に基づいた共通認識を持つと、社員同士のコミュニケーションが弾みます。
理念に対し意識の高い社員の言動が、企業の価値を高め業績向上につながるでしょう。
理念を浸透させる4つのポイント
企業において、理念を浸透させることの重要性と社内へ浸透するステップを説明しました。
ここでは、理念を浸透させる4つのポイントを紹介します。
経営陣・管理職がまず理念に沿って行動する
理念を社員に理解してもらうには、まず社長や取締役などの経営陣、役員、管理職が手本となり理念に沿った行動を示すことです。
理念を伝えるだけでは、頭で理解しても腑に落ちるまで時間がかかるものです。
まずは上司に当たる身近なマネージャーが行動していると、メンバーは真似をしやすく自身で行動するだけで理念の意味が理解できます。
また管理職以上の社員が理解をしていると、理念に沿った人材育成が可能です。
理念浸透を進めるにあたり、マネジメント力も求められるため管理職の育成も必要となります。
社員に理念を理解して親しみをもってもらう
企業には、さまざまな世代や価値観を持つ社員が働いています。
そのため、社員全員に理解できる内容にする必要があります。
繰り返しになりますが、わかりやすい言葉やフレーズを用いて、独自性を持った魅力のある理念が理想です。
魅力的な理念は、社員から親しみをもらいやすく、トラブルや仕事に対して立ち止まったときに思い出すようになります。
また、企業理念や価値観をまとめたブランドブックを作成すると、社員は常に理念を見返せるでしょう。
企業理念を事務所に貼り出す、または冊子として配布するほか、アプリや社内ポータルサイトを通してデータの配信をおすすめします。
このように企業理念が社員のそばにあることで、社員は身近に感じ親しみをもち行動へ移しやすくなるでしょう。
理念に沿った評価制度を整える
社員が理念に沿った言動を積極的に行った場合は、評価すると社員の方向性が定まりモチベーションも高まります。
そのため、人事評価の際は成果や実績など目にみえる功績だけでなく、理念実現へ向けた取り組みを評価する人事制度を整えましょう。
日々の言動は見過ごされやすいため、リアルタイム評価や多面評価の仕組みを取り入れることも有効です。
また企業理念は、入社時の研修に理念教育を組み込むと、業務に向き合う際、理念と一致した行動をしやすくなります。
長期的に理念浸透に取り組む
ここまで企業の理念浸透の方法をご紹介しましたが、浸透していると実感するまでには長期的に取り組む必要があります。
複数の拠点がある企業は、なおさら時間がかかるかもしれません。
そのため、浸透を達成させるには、経営陣が強い意思を持ち年単位で取り組む必要があります。
現場の意見を取り入れながら、企業理念を発信し続けることで社員の行動に変化が表れるでしょう。
企業の理念浸透に成功した取り組み事例5選
理念浸透は、国内外の企業で取り組みが盛んに行われています。
ここでは、実際に成功した5社の取り組み事例を紹介します。
ぜひ参考になさってください。
株式会社オリエンタルランド
東京ディズニーランドを運営している株式会社オリエンタルランドでは、行動規準を明確に掲げています。
The Five Keys〜5つの鍵〜
- Safety:安全
- Courtesy:礼儀正しさ
- Inclusion:インクルージョン
- Show:ショー
- Efficiency:効率
ゲストに最高のおもてなしを提供するための判断や行動を示し、ディズニーランドを運営するにあたり、もっとも大切にしている規準です。
キャストと呼ばれるスタッフは、5つの鍵に基づき行動し、東日本大震災の際に理念浸透の結果が表れ話題となりました。
それは震災当日ランド内にいたゲストに対し、普段は見せることがない段ボールや商品のブランケットなどを提供し、安全確保を第一に考えた行動です。
さらに、株式会社オリエンタルランドは理念浸透のため、経験年数問わず誰が実行しても同じ結果を生むすべての基準の徹底を行いました。
このように、意識合わせのマニュアルと呼ばれるものを作成し成功しています。
参考:株式会社オリエンタルランド『行動基準「The Five Keys〜5つの鍵〜」(東京ディズニーランド)』
京都信用金庫
京都を中心に、滋賀、大阪などに店舗を構える京都信用金庫は、2,000人を超える全職員との対話を徹底して行っています。
その、徹底的に対話する経営をモットーとし、対話のなかで上がった意見から社内コミュニケーションのインフラを整えました。
このように京都信用金庫は、日本一コミュニケーションゆたかな会社作りを理念とし、職員同士のコミュニケーションを促す工夫をされています。
参考:株式会社スタメン『京都信用金庫が描く組織の形。日本一コミュニケーションゆたかな会社を目指して。』
株式会社ウェルカム
株式会社ウェルカムは、食とデザイン2軸でブランドを多数展開しているライフスタイルを提案する企業です。
たくさんの事業拠点があり、さまざまなバックグラウンドを抱えた社員が在籍しているなか、グループ全体に理念や企業の思いを伝えることが困難になっていました。
そこで、理念に沿った行動指針を「グループとして何のために自分たちは存在しているのか。」を理念にリニューアルしました。
さらに、共有するため理念と行動指針の内容をスマートフォンでも確認できる状態にし、確実に浸透できています。
参考:株式会社スタメン『「緊急事態宣言でも仲間と繋がれた事が心強かった」従業員2000名に代表の思いが届き、繋がりを生んだコミュニケーション施策』
株式会社アワード(アドベンチャーワールド)
和歌山にあるテーマパーク、アドベンチャーワールドを経営する株式会社アワードは、企業理念を“こころでときを創るSmileカンパニー”としています。
代表の、「社長だけでなく、社員に理念を自分で考え行動してほしい」との考えが理念経営を進めている企業です。
社員が、ミーティングや各書類作成など日々の業務の中で、企業理念に触れることで企業理念を自分の言葉として発言する社員が増えました。
参考:株式会社スタメン『従業員のSmileを創り出す アドベンチャーワールドの理念経営とTUNAG活用例|TUNAG』
企業の理念浸透は、企業を存続させる重要な取り組み
企業の理念浸透とは、社員全員が共感し実践に落とし込めている状態を指します。
理念には、経営の軸となる経営理念と、企業の存在意義や社会的役割を示す企業理念があります。
長期に渡り理念浸透に取り組むことは、社員のモチベーションやエンゲージメントの向上、さらに離職率低下など、企業が存続するうえで重要です。
企業理念の浸透に悩まれている方は、浸透しない理由を認識し浸透するポイントを実践してみましょう。
また成功事例も参考にし、理念浸透に向けてぜひ効果的な取り組みを行ってみてください。