360度評価は失敗しやすい?
360度評価とは、マネージャーだけでなく同僚やメンバーなど評価対象者と関係のある人物がさまざまな立場から、多角的に評価を行う制度です。
従来の評価方法はマネージャーなど特定の人物のみが評価を行うため、偏った評価が行われたり客観的な評価をしにくいといったデメリットがありました。
一方、360度評価は評価対象を多人数で評価するため、多角的で客観的な評価が行えるのがメリットです。
また、お互いに相手を評価できるのでマネージャーやメンバーといった立場に関係なく意見が言える環境となり、職場のコミュニケーションが活発になって社員のモチベーションも上がるといったメリットもあります。
その一方で、360度評価は必ずしも成功するとは限りません。
どの評価方法でも失敗する可能性はありますが、360度評価の場合は失敗すると職場の人間関係に深刻なダメージを残す恐れもあります。
では、360度評価での失敗例はどのようなものがあるのでしょうか?
次の項で詳しく紹介します。
360度評価の失敗事例
ここでは、360度評価の失敗事例を5つ紹介します。どの失敗事例も360度評価を取り入れたすべての職場に起こる可能性があります。
導入前に失敗事例を知っておけば、対策方法もわかるでしょう。
社員のコミュニケーションが健全でなくなった
360度評価は、会社の従業員同士がお互いに評価しあう制度です。
社員同士が常に公正で平等であり、手厳しい意見にも動じない強さを持っていれば問題ありません。
しかし、そのような職場はごくわずかでしょう。
人は相手から評価されるとわかれば、どうしても素直な意見を言いにくくなりがちです。
例えば、今まできたんなく意見を言い合っていた相手でも、”この人に評価される”とわかったら身構えてしまうでしょう。
その結果、誰もが保守的になり当たり障りのない意見しか言わない恐れがあります。
また、”評価”が脅し文句のように使われるようになってしまう可能性もあります。
「そのようなことを言うと、評価を下げますよ」といった言葉が陰で飛び交うようになれば、誰も画期的な意見など言えなくなってしまうでしょう。
社員のモチベーションが下がった
360度評価を実施すれば、よい評価だけでなく悪い評価もされます。
悪い評価であってもそれが納得できるものであったり、「評価で自分の改善点が見つかった」と前向きに考えられたりするなら問題ありません。
しかし、評価に私情が挟まるなどして”不当に悪い評価をされた”と感じる社員が多くなれば、仕事へのモチベーションも低下してしまいます。
特に、仕事ではしっかりと結果を出しているのに、360度評価が低いと「自分はいくら仕事をしても評価されない」と考え、仕事への意欲も失われてしまうかもしれません。
評価に納得のいかない社員が増えた
人を評価するのは、テクニックと経験が必要です。
360度評価を導入する際、評価の仕方を社員全員に徹底しないと単なる”好き・嫌い”の評価になってしまうこともあるでしょう。
そうなると、評価の信頼性が揺らぎます。
また、社員同士がお互いに忖度しあって”よい評価”しかしない場合、「手間暇をかけて360度評価をする必要があるのか」と疑問に思う社員も出てきます。
360度評価に納得しない社員が増えるほど評価への信頼度は下がり、職場の雰囲気も悪くなってしまいます。
現場の負担ばかり重くなった
人物評価は、アンケートのように簡単には行えません。
くわしく平等な評価をしようとするほど、評価すべき項目が多くなって時間がかかるようになるでしょう。
仕事に余裕がある時期に評価を行うようにすれば、問題ないかもしれません。
しかし、常に忙しい職場や繁忙期に360度評価を取り入れたり指示したりすると、現場の負担ばかりが重くなってしまいます。
仕事に割けるリソースも少なくなり、評価へのモチベーションも上がりません。
その結果、”誰でも最高の評価を付ける”、”誰でも可もなく、不可もない評価を付ける”といった無難なことが起きてしまいます。
これでは、何のために360度評価をしているかわかりません。
かといって「評価に変化を付けるように」とだけ通達すれば、今度は単なる”好き・嫌い”の評価になってしまうこともありそうです。
費用効果が合わなかった
360度評価の導入には、一定の費用がかかります。
経営者からすれば、かけた費用に対して見返りを求めたくもなるでしょう。
しかし、360度評価は結果が出るまでに時間がかかる評価です。
それを無視して「早急に結果を出すように」といった指示を出せば、正しい評価をすることは難しくなります。
その結果、360度評価が形骸化したり、社員同士が疑心暗鬼に陥って職場の雰囲気が悪くなるだけで終わった、といったことにもなりかねません。
ビジネスであれば費用対策効果も大切ですが、そればかりに固執すると失敗する可能性が高まります。
360度評価が失敗した原因
360度評価が失敗するのには、原因があります。
ここでは360度評価がなぜ失敗してしまうのか、その主な原因を5つ紹介します。
360度評価を導入した目的や意図が周知徹底されていない
評価には、さまざまな種類と意図があります。
誰が・何のために・どのように評価する明確にしておかないと、評価の基準が定まりません。
例えば、「今期からマネージャー、メンバー、同僚をそれぞれ評価してください」とだけ説明して後は社員の判断に任せてしまうと現場は混乱するだけです。
“360度評価を何のために導入するのか”、”導入することによってどのような効果を期待しているのか”を経営者側がまずは明確にしましょう。
なんとなく効果的な評価方法に見えるから、といった理由だけで導入してもうまくいきません。
そして、目的や期待する効果を社員にしっかりと説明することが大切です。
そうすれば、導入された現場も評価の基準や方法などがスムーズに理解できるでしょう。
評価の忖度が行なわれる
360度評価を記名で行うと、誰が誰を評価したか一目瞭然です。
同僚やメンバーを評価するならそれほど問題はありません。
しかし、メンバーがマネージャーを評価する場合、名前が明らかになっていれば非常にやりにくくなります。
いくら「メンバーがマネージャーを評価する際も、きたんのない意見を聞かせてください」と告知しても、それが徹底されるまでは時間がかかります。
その結果、役職が上の立場の人への評価ほど、忖度が発生しやすくなります。
役職が上の人ほど評価が高くなり、かわりに役職がない人ほど評価が厳しくなりがちならば、360度評価を行う価値はありません。
匿名性で行えないならば、忖度ができないような制度を整えてから導入することが重要です。
もしくは、忖度を行う意味がないところで360度評価を行うなど工夫しましょう。
賞与や人事査定に360度評価を反映する
さまざまな立場の人が多角的に評価を得られる360度評価は、人材の長所や短所を正確に把握し、適所に適材を配置したい場合に大変役立ちます。
しかし、人事査定や賞与の評価にはあまり適していません。
評価する人間が多くなれば、どうしても仕事の評価だけでなく好き・嫌いの評価も混じってきます。
また、自身の心証をよくしてもらおうとマネージャーへ忖度を行うメンバーも出てくるでしょう。
反対に気に入らない人の足を引っ張るために評価を悪用する人も出てきます。
こうなると、純粋な評価は期待できなくなり360度評価への不満がたまっていきます。
職場の人間関係も悪くなる一方です。
360度評価は万能ではない、と理解しておきましょう。
賞与や人事査定以外に評価を活かす道がないか考えて導入することも重要です。
評価のやり方を教えていない
対人評価を正確に私情をはさまずおこなうには、教育が大切です。
マニュアルや設問を渡されるだけでは、360度評価はうまくいきません。
マネージャーに忖度して役職が上の人ばかりが良い評価を得たり、立場が下の人ばかりに厳しい評価が集中したりする恐れもあるでしょう。
また、評価をしているつもりがいつの間にか同僚同士で足の引っ張り合いになることもあります。
360度評価がスムーズに行えるまで社員を教育するのは手間と時間がかかりますが、ここをしっかりやっておかないといくら費用をかけても成功する可能性は低くなります。
360度評価を導入するならば、社員を教育する時間を含めてスケジュールをたてましょう。
設問が多いなど手間が多すぎる
評価をより正確に多岐にわたって行おうとするほど、手間がかかります。
360度評価を行う際に設問を設け、評価しやすいようにする会社もあるでしょう。
しかし、設問が多すぎれば答えるのも面倒になってしまいます。
また、大規模な会社ほど360度評価を行う人数も多くなりがちです。
普段の仕事に加えて多人数の評価を丁寧にしなければならないとなれば、社員のモチベーションは低下する一方です。
360度評価を導入する際は、できるだけ社員の負担が少なくなるように調整を行い、社員たちが慣れてきたら少しずつ設問を多くするなど工夫しましょう。
最初から完璧に行おうとすると失敗する可能性が高くなります。
360度評価が成功するためのポイント
では、360度評価をスムーズに導入・運用してしていくにはどうすればいいのでしょうか?
ここでは、360度評価を成功させて一定の評価が出せるようにするためのポイントを解説します。
360度評価の導入を考えている会社は、ご参考になさってください。
導入の意図を周知徹底する
360度評価は社員全員が参加して忖度なくお互いを評価しあうことに意味があります。
また、360度評価は仕事ではありませんが、社員の人間関係に重大な影響を及ぼす可能性もあります。
ですから、360度を導入する意図や目的を社員全員に周知徹底することが重要です。
いきなり「マネージャー、メンバー、同僚をこの設問に沿って評価してください」と告知するだけでは、現場は混乱します。
「なぜ、360度評価を導入するのか」「この評価を活用する場所はどこか」だけでも告知しておけば、社員たちは安心してお互いを評価しあえるでしょう。
評価の仕方を社員にしっかりと教える
評価は、感想とは違います。単なる”好き・嫌い”で判断しては正確な評価はできません。
360度評価を導入する目的
- 評価は何を根拠に行うのか
- 評価に忖度をしてはいけない
- 評価に私情は挟まない
このことをよく社員に教えておくことが重要です。
評価を行った経験がある人にとっては当たり前のことでも、教えられないと分からないことは多いものです。
特に、360度評価はマネージャーやチームリーダーなど自分より立場が上の人を評価しなければなりません。
「悪い評価を行ったら、マネージャーの心証が悪くなるのではないか」と心配する人が出て当然です。
また、マネージャーの中には悪い評価を付けられたら「誰が悪い評価をしたのか」と犯人捜しをする方が出てくる可能性もあります。
そのようなことをしてはならないことや、悪い評価をしても人事や賞与に影響はないことを説明するのも、教育の一環です。
人事や賞与に評価の結果を反映させない
人事や賞与に360度評価の結果を取り入れると、良い評価を得ることばかりに社員全員が必死になったり社員同士足の引っ張り合いになったりする恐れがあります。
人事や賞与は仕事のモチベーションにも大きな影響を与えます。
仕事を一生懸命やり、一定の結果を出した人よりもマネージャーやメンバー、そして同僚の受けが良い人ばかり高い評価を得ては、優秀な人ほど仕事へのモチベーションが下がってしまうでしょう。
また、匿名であっても立場が上の人の方が評価は甘くなり、下の人ほど厳しく評価されがちなケースもあります。
このほか、「人当たりはよくないけれど仕事はまじめに取り組み、結果を残す人」ほど不利になるおそれもあるでしょう。
360度評価をできるだけ多くの所で活用したい、といった気持にもなりますが、まずは社員の人生に関係の少ないところだけで活用してみましょう。
360度評価が定着し、黙っていても公平な評価を社員全員が行うようになった後で人事や賞与を決める際の参考にしても遅くはありません。
アフターフォローを入念に行なう
360度評価はさまざまな立場の人が同じ人物を多角的に評価するシステムです。
ですから、マネージャーから見れば優秀な人材でも、同僚やメンバーから見れば短所が目立つといったこともあるでしょう。
正確な評価を行うほど、良い評価と悪い評価が混在しがちです。
そして、悪い評価をされれば、どのような人でもショックを受けます。
仕事で頑張ってよい評価を出している人が悪い評価を受けると、モチベーションが低下しがちです。
また、よい評価より悪い評価の方が多ければ、大きなショックを受けることもあるでしょう。
評価で悪い結果が出てしまうのはどうしようもないことです。
360度評価を導入した経営者の中には「悪い評価をされたことで、本人も自分の短所を自覚できたはず。
これをきっかけに改善してほしいと思っているかもしれません。
しかし、自分の短所を見つめなおし改善するには周りのサポートが不可欠です。
「後は自分で考えて」と突き放してはいけません。
しっかりとしたフォローを行うことが大切です。
悪い評価を得た人を放っておいたり、悪い評価に対してペナルティを与えたりすれば、360度評価がパワハラの温床になる可能性もあります。
また、悪い評価が本人の深刻な問題を提起するものであった場合、会社が組織として解決する姿勢を見せることも大切です。
社員の負担が少ないように工夫する
現在は、どこの事業所でも人員に余裕があるところはほとんどありません。
かつかつな人数で仕事を回しているところもあるでしょう。また、仕事の量に波がある事業所も多いです。
360度評価を仕事と並行して行えば必ず社員の負担が増えます。
しかも、360度評価は短時間で行なえるものでもありません。
仕事ではないが重要な事項はできるだけ社員の負担が軽くなるように工夫することが大切です。
何ページにもわたる項目を記入しなければならないなど、負担が重くなるほど正確な評価は出にくくなります。
例えば、最初は1つ、2つの設問から始めて、日々のルーティーンの中に360度評価が組み込まれたら設問を増やしていくなど工夫しましょう。
360度評価の失敗例を把握して予防することが大切
360度評価は多くのメリットがあり、注目する会社も増え続けている評価方法です。
その反面、導入の意図や目的があいまいのまま取り入れても、効果は期待できません。
また、一度会社の人間関係に深刻な弊害が出ると、回復までに長い時間がかかります。
ですから、時間をかけて目的や意図を明確にし、社員に周知徹底したうでで導入しましょう。