自己育成の定義を解説
はじめに、自己育成の定義を解説します。
自己育成とは、文字どおり自己を育成することですが、能力開発などと混同されがちです。
ここでは、能力開発や自己啓発との違いなども紹介します。
ビジネスにおける自己育成とは自分の能力を引き出すこと
ビジネスにおける自己育成とは、自分の能力を引き出す活動全般を指します。
人間は、誰もが成長できる伸びしろを持っています。
学生時代は、努力が点数としてあらわれるため、自分の成長を実感できる機会も多かったことでしょう。
しかし、社会人になってからも自己育成を続けていくのは大変です。
特に、新入社員の頃は言われたことをこなすので精いっぱいという方も多いことでしょう。
厚生労働省が平成31年に発表した調査結果によると、自己育成の一環として自己啓発を実施した労働者は、全体の35.1%に留まっています。
参考:厚生労働省『能力開発基本調査』
自己育成と自己啓発の違い
自己育成とよく似た言葉に自己啓発があります。
自己啓発とは、会社の従業員が自発的に仕事に関わる知識やスキルなどを身につける行動のことです。
自己育成が自分の能力を引き出して成長しようとする姿勢全般を指すのに対し、自己啓発はより具体的な行動を意味しています。
そのため、会社では自己育成ではなく自己啓発に力を入れているところも多いでしょう。
また自己啓発は会社のサポートがより重要になります。
しかし会社が従業員にとって魅力的でなければ、自己啓発のモチベーションは上がりません。
会社が従業員の自己啓発が進むように、時間をかけて研修などを行う必要もあります。
自己育成と能力開発の違い
能力開発とは、個人が持っている能力をより高めたり新たに育成したりするために行なう活動です。
人にはさまざまな能力がありますが、会社の仕事に活かす場合は適性を見極めることが重要です。
例えば、コミュニケーション能力が特化した方は、営業ならそれを活かせます。
根気強く計算が得意な方は、経理方面の仕事が向いています。
能力開発とは、従業員1人ひとりの能力を見つけ出すことからそれを伸ばす訓練まで全般が含まれるのです。
自己育成が「自分を成長させよう」という姿勢なのに対し、能力開発はより具体的で仕事に沿った自己開発といえるでしょう。
そのため、順番としては自己育成の重要性を知り、自己啓発を行なって仕事に活用できる能力を知り、さらに能力開発でそれを伸ばす訓練を行なえば、会社にとって価値の高い人材を育成できます。
自己育成が進まない理由とは
自己育成は本人にとってはもちろんのこと、会社にとっても大変有効です。
現在は労働人口の減少から、“会社にとって必要な人材を採用する”方式から、“会社にとって必要な人材に育て上げる”方式にシフトチェンジしています。
自己育成や自己啓発に毎年費用をかけている企業は多いですが、自己育成に積極的な社員はわずかです。
ここでは、自己育成が進まない理由の一例を紹介します。
ステップの方法が間違っている
自己育成は、まず“最終的にどのような社会人になりたいのか”といった目標を定め、それを達成するためにはどうすればいいのか、と考えていきます。
目標を定めて努力する姿勢を築くことが自己育成、その具体的な手段が自己啓発や能力開発といってもいいでしょう。
そのため、いきなり会社が「自己育成のために自主的な勉強を月何時間行なおう」とか「自己啓発や能力開発の一環として、特定の資格を取ろう」と発破をかけてもうまくいきません。
従業員は、自己育成のためになぜ自主的な勉強や資格取得が必要なのか理解していないからです。
また、自己育成は通常業務以外の時間で行われることが多く、メリットを従業員が感じられなければ、自己育成へのモチベーションは上がりません。
自己育成のモチベーションをアップするには、会社が「自己育成のためにこれをやって」と押しつけるのではなく「自己育成のためにこれをしたい」と従業員が思えることが重要です。
そのためには、まず目標を設定し、目標に近づくための計画立てをサポートしましょう。
1人ひとりに適した目標やステップは異なるので、会社が「この目標、この計画で自己育成を進めなさい」と指示しないようにしましょう。
時間をかけない
自己育成には時間がかかります。
例えば、資格を取るためにも数十時間~百時間が必要です。
一定の実務経験が受験資格の場合、仕事をしながら半年~1年かけて勉強して試験に臨む方も珍しくないでしょう。
そのため、目標を達成するためには年単位の時間が必要です。
しかし、会社がそれを理解していないと自己育成はうまくいきません。
例えば、「半年で達成する目標を定めなさい」と会社が命じれば、従業員は従うでしょう。
半年程度で達成できる目標は限られています。
傍目からみれば、“簡単に達成できる目標ばかり定めて向上心がない”と写るかもしれません。
従業員のモチベーションも上がらず、それなら日常業務をしっかりしたほうがよい、と考える方も出てくるでしょう。
また、会社が自己育成の時間をかけないのも問題です。
毎日残業が当り前で休みも少ない勤務形態なら、自己啓発は進みません。
従業員が安心して自己育成に取り組めるように時間を確保するのは、会社の役目です。
マネージャーの教育が必要
自己育成は、従業員が個々で行うのは大変です。
学校に教師が必要なように、自己育成にはステップをサポートするマネージャーが必要です。
マネージャーが自己育成の指標を定めたり従業員のサポートをしたりすることで、モチベーションが維持できるケースもあるでしょう。
能力開発や自己啓発のための講師は外部からでも招けますが、マネージャーは自社で育成したほうがうまくいきやすいです。
時間はかかりますが、一度マネージャーの教育や育成がうまくいけば、そのノウハウを引き継いでいくこともできます。
自己育成を達成するポイント
では、どうすれば時間をかけてでも自己育成を達成できるのでしょうか?
ここでは、自己育成を達成するためのポイントを解説します。
能力開発・自己啓発からステップアップしていく
自己育成は、能力開発や自己啓発とあわせて行っていきましょう。
自己育成として目指す社会人の目標を定めたら、能力開発と自己啓発を利用して目標に近づいていきます。
例えば、自己啓発で仕事に関わる知識や技術を身につけるために勉強をします。
すると、自分の不得意分野と得意分野がわかってくるでしょう。
得意分野のうち、仕事に活かせるものを能力開発で伸ばしていけば、目標に近づきます。
ただ漫然と目標を定め本を読んだりセミナーに参加したりするだけではなく、能力を引き出して成長させれば仕事にもよい影響が出ます。
モチベーションもアップするでしょう。
また、資格を取得すれば資格手当などもついて昇給のチャンスも得られます。
会社側は、資格取得したらお祝い金を出すなどすれば、社員のやる気を引き出せるでしょう。
気づきと変化を重要視する
学業の成績アップのように、自己育成は目に見えて成長していくという実感がつかみにくいものです。
長期間真面目に自己育成に取り組んでいる従業員ほど、「自分の行っている自己啓発や能力開発は、果たして自己育成につながるのか」と悩みやすいかもしれません。
しかし、ステップの仕方が正しければ、小さい変化は確実に現われます。
特に“気づき”は重要です。
例えば、以前はマネージャーや先輩に注意されたことがピンとこなかったが、今はなぜ注意されたかわかる、といったことも気づきです。
また、自己啓発や能力開発の結果、仕事が効率化できたりよりよい結果が出せたりしたら、それも変化といえます。
このような小さい出来事の積み重ねで、自己育成は進んでいきます。
モチベーションが保てなくなったら、マネージャーに相談してリフレクション(振り返り)なども行ってみてもいいでしょう。
時間がかかってもよいことを強調する
現在ビジネスには、スピードが求められます。
できる限り最短で結果を出すことを良しとする企業も多いでしょう。
しかし、前述したように自己育成には時間がかかります。
場合によっては、数年がかりでようやく達成できる目標もあります。
会社側がまず、「自己育成は時間がかかるもの」と従業員に教え、急かさないことも重要です。
会社がいつも「目標を達成したか」と聞いてくるようでは、自己育成はうまくいきません。
しかし、定期的な報告は必要です。
3か月~半年に1度ずつ、達成できたこと、まだ取り組んでいくことなどをまとめて文章で提出するなどルールを作ってもいいでしょう。
ただし、会社側は進歩状況に可能な限り口を出さないことを推奨します。
自己育成はミドル・シニア従業員にも役立つ
自己育成は、若手社員が対象と思われがちです。
実際、自己育成は新入社員から30代までの若手社員のみに実施している会社も多いでしょう。
しかし、働き方改革でミドル・シニア社員が定年を迎えても再雇用される例も増えました。
その一方で、50代を迎えた社員に早期退職を促す会社もあります。
ミドル・シニア社員を取り巻く環境は大きく変化し、「これから自分はどうやって仕事に向き合っていけばいいのか」と不安に思う方もいるでしょう。
ミドル・シニア社員にも自己育成は有効です。
入社した頃の古い価値観を捨ててブラッシュアップを行い、これまでの経験を活かして新しい能力を身につければ定年後も活躍してくれるでしょう。
自己育成は時間をかけてじっくり取り組むことが大切
今回は自己育成の定義ややり方、注意点などを紹介しました。
自己育成は目標に達成するまで時間がかかりますが、会社に役立つ有能な社員が育ちます。
会社がお金や時間をかけて取り組む価値は十分にあるといえます。
これから自己育成に取り組む場合は、マネージャーの育成も同時に行いつつ自己育成に取り組みましょう。