マーケティング手法の1to1とマネジメント手法の1on1
1to1と1on1は、異なる分野で使われるまったく別の用語です。
1to1はマーケティング手法で、1on1はマネジメント手法です。
どちらもビジネスパーソンが使うという点では、たしかに共通しています。
はっきりと区別して使わなければならないのは、どちらもが注目され、使用される頻度が高いためです。
1to1は1to1マーケティング(One to Oneマーケティング)の略
1to1は、1to1マーケティングやOne to Oneマーケティングなどといった形で、省略することなく表現されることもあります。
顧客1人ひとりの好みに合わせたマーケティング手法のことです。
1to1マーケティングという言葉は、ここのところ注目されるようになってきました。
その背景には、インターネットの普及があります。
かつては、TVコマーシャルを中心として1つの大きなトレンドが生み出されました。
同じトレンドを多くの人が求めて行動するのが、一般的だったのです。
しかし、その状況をインターネットの普及が大きく変えました。
誰しもが、流行や情報の発信源となれる時代です。
さまざまなトレンドが、つくり出されるようになりました。
価値観が多様化したことから、それぞれの顧客に応じたマーケティングを考える必要が出てきたのです。
1on1は1on1ミーティングの略
1on1も、この10年ほどで注目されるようになってきた言葉です。
ビジネスシーンでの注目度は非常に高く、1on1ミーティングを1on1と略して言う、あるいは、書く人が少なくありません。
2012年に日本のヤフー株式会社が1on1ミーティングを導入したのを皮切りに、パナソニック株式会社・ソニー株式会社・クックパッド株式会社など、有名な企業が続々と1on1ミーティングを導入し成果を出し続けています。
英語における“1to1”と“1on1”の違い
英語では、1to1やone to one、あるいは、ハイフンを入れた1-to-1やone-to-oneが表記に用いられます。
1on1も同様に、1とonの間には何も入れない日本語の記事がほとんどでしょう。
英語では、1-on-1やone-on-oneなど、ハイフンを入れた形で表記されます。
どちらにも日本語の“マンツーマン”の意味がありますが、それぞれの微妙な違いを知っておくと理解も深まるでしょう。
例えば、英語の1to1には、一方的な流れのニュアンスがあります。
1to1コミュニケーションという言葉を耳にしたことはないでしょうか。
1人ひとりの顧客に適したコミュニケーションを企業側が図ることを意味しています。
これに対して、2人が相対するニュアンスが“1-on-1”にはあります。
格闘技で2人の選手が相対している場面には、まさにふさわしい言葉でしょう。
1on1ミーティングは、メンバーのために実施されます。
誤って“1to1ミーティング”としてしまうと、マネージャーからの一方的な流れのニュアンスを持ってしまいます。
注意が必要でしょう。
1to1マーケティングの詳細
インターネットの普及を背景に、注目を集めるようになった1to1マーケティングです。
「オンライン上でしか、効果を高める方法がない」と思う人が少なくないかも知れません。
しかし、意外なことに、インターネットが普及する以前から多用されていたオフラインで実践する方法でも、効果を高めることは可能です。
その理由も含めてオンライン上での具体的な方法から、以下に解説しています。
オンライン上の1to1
具体的には、以下のような手法があります。
- レコメンデーション:データから顧客の好みを分析し、興味・関心がありそうな情報を提示する
- リターゲティング広告:Cookieによってリスト化された訪問ユーザーの情報を元に広告を配信する
オフラインでの1to1
古くからある手法ですが、現在も多くのビジネスで使われています。
- パーソナライズDM:顧客1人ひとりに向けて、内容やタイミングをカスタマイズしたダイレクトメール
- 展示会への出展:自社ブランドを認知度や信頼性を向上
- ポスティング広告:消費者の自宅へ直接広告物を配布
- テレフォンアポインターや飛び込み営業:電話や顧客を直接訪問し商談やアポイントを獲得
1on1ミーティングの詳細
言葉の微妙なニュアンスからも1on1ミーティングは、マネージャーからメンバーへの一方的な流れを感じさせません。
1on1ミーティングは、メンバーのために実施されます。
実際に導入してみると、その有効性を十二分に感じ取れるのではないでしょうか。
適切な運用さえできれば、導入に要したコストや時間を上回る大きなリターンを期待できます。
1on1ミーティングの具体的な目的
メンバーのために実施するのが、1on1ミーティングです。
以下にあげている1on1ミーティングの目的は、すべてがメンバーの何らかの利益に通じています。
また、1on1ミーティングでの話題を「何にすべきかかわからない」とこぼすマネージャーもいるようです。
1on1ミーティングの目的から逆に考えれば、そういった悩みも払拭(ふっしょく)されるのではないでしょうか。
メンバーの目標の達成をサポート
メンバーが目標を達成しやすくサポートする目的が、1on1にはあります。
目標の設定が年に1~2回の実施なのに対して、1on1がはるかに高頻度で実施されるのも、それが理由です。
目標は、半年から1年ほどかけての達成を想定していることが多いのではないでしょうか。
将来のキャリアに関する目標なら、年単位での達成を想定していることもあるでしょう。
1on1では、目標までの到達レベルを高い頻度で確認します。
そして、今後の対策をマネージャーとメンバーが一緒に考えるのです。
1on1が導入されていない企業では、目標までの道のりをメンバー1人で考えていることがほとんどではないでしょうか。
よほど目標に近づかないかぎり、漠然としたイメージでしか沸いてこなかったかも知れません。
1on1の導入で目標までの距離が遠い時点でも、より明確な道筋を脳裏に描けるようになります。
モチベーションアップから、感謝の念を抱いたメンバーのエンゲージメントも向上するでしょう。
企業が掲げる理念のメンバーへの浸透
従業員のベクトル(向きと大きさを持つ量)をそろえるべく、ほとんどの企業は事業に対する根本的な考え方を策定しているのではないでしょうか。
この考え方、つまり、理念を朝礼で唱和している企業も数多く存在しています。
ただ、唱和はしているものの、理念を深くまで理解できている従業員は、意外と多くはないものです。
そのため、理念についての話を1on1の話題にすることをマネージャーに推奨している企業もあります。
なお、この際には理念の押しつけにならないよう、注意が必要です。
マネージャー独自の解釈の押しつけは、なおさらでしょう。
企業が掲げている理念の深い部分まで理解ができると、メンバーは自身の業務がどういった形で役に立っているかを感じながら、業務に向かい合うようになります。
メンバーのモチベーションアップが期待できるのです。
メンバーのメンタルヘルスを確認
メンバーの心の底を外観のみで、正確に見抜けるマネージャーは多くはないでしょう。
明るくふるまっているように見えるメンバーも、実は悩んでいたということもありえます。
高い頻度で実施される1on1ミーティングは、メンバーのメンタルヘルスをチェックするのにも有効です。
問題が感じられたときには、急いで対処することが可能となるからです。
頼りにしていたメンバーの突然の辞職に、驚いたことはないでしょうか。
厚生労働省の調査によると、労働者2人に1人以上の率で仕事や職業生活から強いストレスを感じているそうです(参考:『労働安全衛生調査(実態調査)』2021年7月5日発表)。
そして、メンタルヘルスの不調で1か月以上も休業したり、退職したりした労働者がいる事業所の割合は10.1%にも及ぶといいます。
職場内での人間関係はもちろん、キャリアの見通しが不透明なこと、日々取り組んでいる業務上の問題など、さまざまなことがメンバーの心をむしばんでいるのです。
ストレスの原因を1on1でマネージャーが特定するのは、ある程度なら可能です。
どの程度の時間を睡眠に当てているか、業務量は多すぎないかなど、特定のための具体的な質問はいくつかあります。
メンバーが悩んでいる問題の把握
メンバーが悩んでいるかどうかも、外見のみで把握するのは難しいでしょう。
現在、困っていることについて、直接聞いてみるのはいかがでしょうか。
メンバーが問題と感じているのは、問題の表面的なことでしかない場合も考えられます。
問題の本質を突きとめるために、メンバーがなぜそれを問題と考えているのかを聞くことではっきりする場合もあります。
直面している問題とその本質がはっきりすれば、解決に向けての方向性を示してあげることを忘れてはなりません。
ただし、ここでもいきなり解決の方法を言わないほうがいいでしょう。
1on1ミーティングには、メンバーの成長を目的としている側面もあるからです。
また、特別な知識なくしては、解決に至らない場合も考えられます。
それでも、その知識を調べるための方法をティーチングするくらいに、マネージャーはとどめておくことが推奨されます。
マネージャーは質問などを工夫することで、メンバー自身で解決に向けて動き、問題の解決をみずから実践できるようにするのです。
そうすることで、業務に対して積極的に参加する姿勢が自然とメンバーの身につきます。
積極的な姿勢は、メンバーを早期に成長させるでしょう。
メンバーとの間に信頼を構築
マネージャーがメンバーからの信頼を獲得できれば、チームの業務を効率的に進められるようになります。
従来、コミュニケーション不足は飲み会の開催などで解消することが、多かったのではないでしょうか。
ところが、業務とプライベートを完全に分けたいと考えるメンバーは、確実にいるはずです。
また、飲み会にはほかのメンバーも参加していることがほとんどでしょう。
業務やプライベートに関する悩みがあったとしても、ほかのメンバーがいる前では話しづらいと感じるメンバーがいても不思議ではありません。
その場には、マネージャーとメンバーしかいない状況で実施するのが1on1ミーティングです。
1on1ミーティングを導入した当初は口が重かったメンバーも、回数を重ねるにつれ口数が増えてくるのが通常です。
さらに、本音を語ったのちのメンバーは、自身のことをわかってくれているマネージャーを信頼するようになります。
もちろん、その前提にマネージャー側の信頼されるような言動が必要ではあります。
1on1ミーティングの効果をアップさせる傾聴
1on1ミーティングでは、傾聴がマネージャーの基本的な姿勢として求められます。
傾聴でメンバーに対して傾けるのは、文字どおり耳のみではありません。
目や心も向ける必要があります。
傾聴は、カウンセリングやコーチングなどで用いられるスキルです。
メンバーが伝えたいことを深く理解できるようになる上に、相手の信頼感の獲得もできます。
その傾聴には、次の(1)~(3)のスタイルがあります。
メンバーの様子を見ながら、(1)から順に試していき、できれば(3)の積極的傾聴で1on1ミーティングを実施できるのが理想です。
これら3つの傾聴を習得する際にも、(1)~(3)の順序で進めていくことが推奨されます。
傾聴の大切さについては、この記事にも書かれています。
参考:『1on1導入による育成の効果を実感できない企業が抱える課題と対策』
(1)受動的傾聴
3つある中でも、基本となる傾聴として位置づけられています。
傾聴力を身につけていく際には、この受動的傾聴からはじめるのがいいでしょう。
文字どおり受動的な姿勢で、マネージャーはメンバーの話を聞きます。
話のペースをメンバーに合わせるのです。
沈黙の時間も生じることになるでしょう。
しかし、メンバーは自身に問いかけ、自身に対する回答を考えている時間です。
マネージャーは、無理に話しはじめる必要はありません。
メンバーが何かを話しはじめるまで、黙ったまま待っていても問題はないのです。
むしろ待てるかどうかが、受動的傾聴のポイントです。
(2)反射的傾聴
受動的傾聴の次に身につけるべきなのが、反射的傾聴です。
3つの傾聴スタイルすべてを習得しているマネージャーなら、メンバーの様子を見ながら受動的傾聴の次に反射的傾聴を試してみるのも1つでしょう。
受動的傾聴では用いられない技術の1つが、バックトラッキング(オウム返し)です。
例えば、メンバーが「この前同僚のAさんとの間で○~なことがあって」と切り出してきたのなら、「○~かあ」などとメンバーの発言の1部を繰り返します。
話を理解していることを具体的なアクションで伝えられるのが、反射的傾聴のメリットです。
ただ、注意点もあります。
的外れなことを返してしまうと、逆に「理解されていない」「受け入れられていない」などと捉えられてしまいます。
的を射たことをバックトラッキングするよう、細心の注意が必要です。
(3)積極的傾聴
受動的傾聴⇒反射的傾聴と順調に、習得やメンバーへの実践を進めてこられたでしょうか。
1on1ミーティングで理想とされているのが、積極的傾聴での実践です。
アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャース氏が1957年に提唱した積極的傾聴(アクティブリスニング)では、主体的にメンバーへ働きかけます。
双方が信頼できる関係を意識して構築する(マッチング)という要素が、反射的傾聴に加わります。
話のテンポ・リズム・強弱・抑揚・使う言葉などをメンバーに合わせることで、マッチングの達成は可能です。
また、自身に似た人に信頼感・安心感・親近感などを抱くという類似性の法則が、マッチングの基本にはあります。
積極的傾聴に必要な技術
1on1ミーティングに大切な傾聴には3種類あり、中でもより深く相手に働きかける積極的傾聴の実践が理想的です。
その積極的傾聴に必要とされる技術には、次に説明するバーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションがあります。
なお、受動的傾聴⇒反射的傾聴⇒積極的傾聴の順に、習得していくことを説明しました。
受動的傾聴や反射的傾聴の技術として紹介した技術で、バーバルコミュニケーションやノンバーバルコミュニケーションに含まれているものもあります。
バーバルコミュニケーション
言語コミュニケーションとも呼ばれるバーバルコミュニケーションは、言語を用いて伝達するコミュニケーションです。
話し言葉のみならず、文字を用いたコミュニケーションも、バーバルコミュニケーションの1つです。
言語に関する基礎的な能力が必要とされる上に、言葉の意味や微妙なニュアンスは時代によっても変わります。
十分なバーバルコミュニケーションをするためには、日常的な言語の勉強も必要と考えたほうがいいでしょう。
バックトラッキング(オウム返し)
カウンセリングの世界で、カウンセラーがクライアントから信頼感を獲得するために用いられる方法です。
しっかりと聞いていることを伝えられる方法で、オウム返しとも呼ばれています。
この記事にも、バックトラッキング(オウム返し)への言及があります。
参考:『1on1ミーティングで必要なスキルとは?スキルの磨き方もご紹介』
質問
メンバーへの質問でまず大切なのは、5W1Hを意識することです。
また、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを、メンバーの様子を見ながら使い分けることも有効です。
オープンクエスチョンは、回答に幅を持たせた質問のことです。
「そのときどう思いましたか?」など、「はい」や「いいえ」で回答できる質問ではありません。
クローズドクエスチョンは、「はい」や「いいえ」で回答できる質問や出身地を尋ねるなど、回答の範囲が限定される質問です。
なお、この記事では、相づちと質問の時間を1on1ミーティングの3割ほどに抑えることを推奨しています。
参考:『事前準備が9割!効果的な1on1の進め方と6つのポイントを解説』
フィードバック
過去の振り返りと今後に向けたアドバイスをセットにしてフィードバックするのが、効果的です。
ほかのメンバーとの比較は、避けるのが無難でしょう。
ほかの人よりすぐれていることに価値があるとする考え方は、メンバーの成長を妨げます。
また、誇張しすぎた褒め方も考えものです。
真実味にかけるからです。
ノンバーバルコミュニケーション
言語を用いない伝達の手段が、ノンバーバルコミュニケーションです。
例えば、身ぶり手ぶりなどのしぐさが当てはまります。
笑顔や泣き顔を見せることも、ノンバーバルコミュニケーションです。
ミラーリング
マネージャーがメンバーと同じ動作をすることで、メンバーはマネージャーに対する信頼や親近感を持つようになります。
水を飲むなどの簡単な動作でいいのです。
そのほかにも、話の間の取り方・声のトーン・表情・言葉などを、意識的に合わせるスキルが多く用いられています。
なお、同じ言葉を繰り返すのはバックトラッキング(オウム返し)であり、バーバルコミュニケーションスキルの1つでもあります。
表情・視線・姿勢
笑顔でメンバーに接することも、1on1ミーティングには重要です。
話しやすさを感じられる程度の快適さをメンバーに感じてもらうことが必要なのは、お客様ビジネスと同様に考えていいでしょう。
話をしっかりと聞いてくれていることが伝わるような姿勢も、メンバーが心を開くためには不可欠です。
とはいうものの、メンバーの目ばかりを見続けるの考えものです。
威圧感を与えないためにも、これには注意が必要でしょう。
適度に、意図して視線を外したり、目ではなくメンバーの眉間を見たりなどすることが、メンバーに威圧感を感じさせずに対話をできるようになるための要領です。
まとめ 1to1と1on1の違いを知って円滑なコミュニケーションを実現しよう
1on1と1to1は名前が似ていますが、意味が異なります。
社内で両方の言葉を使っている場合は、意味を混同してしまっている従業員もいるかもしれません。
1on1と1to1の意味が混同していると、伝わっていると思っても、実は伝わっていなかったという問題が起きてしまいます。
自分はどちらの言葉について話しているのかを整理し、相手も自分と同じ認識をしているかの確認が必要です。
それぞれの使い分けを明確にし、社内に浸透するように心がけましょう。