360度評価とはどのようなもの
はじめに、360度評価の定義や特徴、歴史、マネージャーがメンバーを評価する垂直評価との違いを解説します。
360度評価の歴史は意外と古く、1970年代から一部の企業が活用してきました。
しかし、ビジネス系雑誌に取り上げられるなど注目が集まったのは2010年代になってからです。
その理由なども説明します。
マネージャーやメンバーなど異なる立場から評価を受ける制度
360度評価を一言で説明すると、“いろいろな立場の人間が複数集まって1人を評価する制度”です。
360度とは、全方向を意味しています。
多くの企業で長い間、取り入れられてきたマネージャーやメンバーが行う評価は、垂直評価と呼ばれ、特定の方向からしか人物評価が行えないデメリットがありました。
一方、360度評価を行うと社員はマネージャーだけでなく同僚やメンバーからの評価を受けるようになり、多角的な評価が可能です。
マネージャーには見せない一面を、同僚やメンバーには見せるといった方も珍しくありません。
360度評価を行えば、社員に対するより正確な評価を行いやすくなります。
人事評価材料をより多く集められる
マネージャーだけがメンバーを評価する「垂直評価」は、評価が一方的になるだけでなく価値観が固定されがちです。
例えば、第一印象がよいメンバーは多少失敗してもよい評価が付けられやすい一方で、第一印象があまり良くなく、一回目の評価で厳しい評価が付けられたメンバーは挽回が難しくなりがちです。
また、マネージャーはさらに上に評価してくれる方がいないと、自分が評価される機会がなく、価値観のアップデートや成長のチャンスに恵まれません。
そのため、一般社員は成長し続けているのに管理職は伸び悩む、といったケースもあります。
360度評価はマネージャーがメンバーを評価するだけでなく、その逆も行います。
同僚同士も評価し合うので人事評価の材料をより多く集められるでしょう。
360度評価が日本で再注目を集めた2010年の2年前の2008年、リーマンショックが発生しています。
リーマンショックでは日本の企業も大きな影響を受け、組織改革が必要になったところも多かったでしょう。
360度評価によって得られる多角的な人事評価の材料は、組織改革にも有効です。
テレワークにも効果的
世界中を席巻した新型感染症の流行と共に、テレワークの導入が一気に進みました。
現在は規制がかなり緩和されてきましたが、テレワークが便利なので業務形態はそのままの企業も多いことでしょう。
テレワークになると、同じ部署の中でも接する人数が少なくなります。
メンバーを多く抱えているマネージャーほど、正しい垂直評価は難しくなりがちです。
同僚やメンバーも評価に加わる360度評価ならば、評価する負担も減らせます。
360度評価の目的
360度評価は、複数の立場の社員が多角的に1人の社員を評価する制度と、おわかりになられたと思います。
では、360度評価を導入する目的とはなんでしょうか?
ここでは、360度評価が導入される主な目的を紹介します。
人事評価材料の多様化
人には、いろいろな一面があります。
マネージャーには見せないけれど、同僚やメンバーには見せる一面を持っている社員も多いです。
また、仕事にも人によって得意・不得意があります。
リーダーになって同僚やメンバーをまとめて統率し、結果を出すことが得意な社員がいる一方で、リーダーをサポートするのが得意な社員もいるでしょう。
マネージャーから見るとリーダーは目立ちますが、サポーターは目立ちません。
しかし、サポーターがいてこそスムーズに成果が出る仕事も多いです。
特に、長期間コツコツ取り組まないと結果が出ない仕事は、サポーターの力量が成果を左右することも珍しくありません。
360度評価を行えば、マネージャーには見えなかった社員の長所がはっきりするでしょう。
限られた人材を有効活用し適材に適所を配置するために大変有効です。
社員同士の意識改革や組織変革を促す
人から評価されることは、モチベーションアップにつながります。
垂直評価でも評価されやすい能力がある社員ならばいいのですが、垂直評価では長所が見えにくい社員はモチベーションが上がりにくいものです。
マネージャーからの評価が低くても、同僚やメンバーからの評価が高ければモチベーションアップにつながります。
“自分にはこのような長所があった”、“この長所を伸ばそう”といった意識改革にもつながるでしょう。
一方、マネージャーは評価されることが少ない分、自分を省みる機会が少ないです。
メンバーや同じ立場の社員に評価されることにより、あらためて自分の仕事ぶりを確かめて改善すべき点に気づけるでしょう。
このように、社員1人1人の意識改革がやがて組織改革につながります。
経営者が社員の上から「意識改革、組織改革」と命令するより、評価によって意識をあらためるほうが何をどうあらためていいのかわかりやすく、効果的です。
自己評価と他者評価のギャップがわかる
自分のことは案外わからないものです。
特に、マネージャーは“自分の実力でここまで成長してきた”という自負があるので、自己評価が低めの方も多いでしょう。
360度評価を行えば、自己評価と他社評価のギャップがわかります。
自分が思っていたよりも皆に評価されているとわかれば、自信も出ることでしょう。
モチベーションも高まります。
一方、自分で思ったよりも他者の評価が厳しかった場合は、態度や仕事への取り組み方を反省する材料になります。
特に、管理職は普段の仕事ではリーダー的な立ち位置になることが多く、他の社員の功績も“自分の指導のお陰”などと思いがちです。
ですから、リーダー的な立場の管理職の方々が、自分の指導について意見をもらい、意識改革をするために360度評価を取り入れる会社もあります。
社員の行動改善につなげるため
会社組織は、時間がたつほど閉鎖的になりがちです。
“長年の習慣”、“我が社の伝統”といったものに縛られ、改革が必要だけれど進まないといったこともあるでしょう。
また、管理職の力が強い会社はマネージャーの意見が最優先されて、メンバーがはっきりと意見を言いにくいこともあります。
そのような状況を改善するために、360度評価を取り入れる会社もあります。
匿名性の360度評価ならば、きたんなき意見が聞けるでしょう。
それが社員の意識改革、ひいては行動改革につながります。
360度評価の効果をご紹介
360度評価を取り入れる目的は主に組織改革や、人材の有効活用であることがおわかりいただけたでしょうか?
ここでは、360度評価の効果について解説します。
一朝一夕にこのような効果を出すのは難しいですが、続けていくことで一定の効果が現われる可能性は高いでしょう。
評価の客観性が増す
限られた社員が多数の社員を評価するシステムだと、どうしても評価する側の私情が入りやすくなります。
例えば、マネージャーが目をかけている社員が高評価を得やすくなったり、リーダー的な立場になった社員が評価されやすくなったりすることもあるでしょう。
客観性が失われた評価は、社員からの信用も失います。
多人数で1人を評価するシステムだと、評価が客観的になりやすい効果があります。
示し合わせない限り、極端に低評価、もしくは高評価を得ることはありません。
今まで日の目を見なかった社員の長所が注目を集められるなどの効果も期待できるでしょう。
また、評価する人の年代も幅広いので「新しい価値基準」を評価に取り入れられます。
評価に納得しやすい
マネージャーだけの評価だと、結果に不満を持つ社員も出てきます。
特に、結果が出るまでに時間がかかる仕事を受け持っている社員や、派手な結果が出にくい仕事をしている社員は高評価を得るチャンスに恵まれにくい傾向です。
自分の仕事が適正に評価されないと、モチベーションも低下して転職を考える社員も出てくるかもしれません。
目立つことはないが、仕事をスムーズに進めるには欠かせない人材が失われてしまえば、いつの間にか業績が低下する恐れもあるでしょう。
360度評価はいろいろな立場の社員が評価するので、結果に納得しやすい効果もあります。
意外な社員の特性を発揮できる
現在は、社員をいろいろな部署で働かせてみて最も適切な仕事を行わせる、といった時間と手間をかけた方法で社員の適正を図る余裕がない企業も多いです。
また、社員によってはどうしても苦手な仕事があり、苦手な仕事を任されるなら転職を考える方もいるでしょう。
360度評価を行えば、社員の特性をいち早くつかめるかもしれません
管理職の人数が少なくても、効率的に適材に適所を配置できれば、会社としても無駄がなく効率的です
また、社員も自分の特性が伸ばせる仕事なら、モチベーションも保てやすく結果も出やすいでしょう。
評価を行う立場の社員の負担が減ります。
自己改革や組織改革が行いやすくなる
前述したように、一緒にする仲間から評価されたり改善点を指摘されたりすれば、自己改革もやりやすくなります。
管理職の意識改革も早めに進む可能性もあるでしょう。
経営者が「組織改革」と命じても、何をどのようにやればいいか迷う状態では、うまくいきません。
組織改革を行わなくても、社員ひとりひとりが“自分はここを改善しよう”と思えるようになれば、自然と働きやすい職場になるケースもあります。
職場の雰囲気が良くなり働きやすくなったと多くの社員が実感できれば、360度評価もより力を入れて取り組んでくれるでしょう。
360度評価を導入して効果を出している企業の事例を以下の記事で紹介しています。
『あの有名企業も!360度評価の違いを10社の導入事例と共に解説』
360度評価を導入する際の注意点
最後に、360度評価を導入する際の注意点を紹介します。
360度評価は目的があって導入すると高い効果が期待できますが、失敗すると弊害が出ることもあります。
導入する際、どのようなポイントに注意すればいいのか把握しておけば成功する可能性も高まるでしょう。
悪口と忖度だけにならないように気をつける
360度評価は記名と匿名があります。
記名をすれば無責任なことを言えないメリットがある一方で、メンバーがマネージャーを評価しにくくなるのがデメリットです。
一方、無記名にすればきたんない意見を言える一方、社員同士が結託して誰か1人に集中的に悪い評価を行なう可能性もあるでしょう。
360度評価を正確に行うには、忖度と悪口を評価に取り入れないように指導することが重要です。
忖度と悪口を評価としても何の注意もされなければ、360度評価は何の効果もなくなります。
導入する前にNG例などを具体的にあげ、評価の方法を教育しましょう。
アフターフォローをしっかりする
360度評価は、100点満点がありません。
多数の社員に評価されるので、必ず悪い評価もつきます。
社員によってはよい評価より悪い評価が多いこともあるでしょう。
この結果に奮起する社員ばかりなら問題ありません。
しかし、社員によっては評価に落ち込んでモチベーションが低下したり仕事への意欲を失ったりすることもあります。
評価をしたらしっぱなしではなく、必ずアフターフォローを行いましょう。
そうすれば、社員は“どうすれば成長できるか”など、自己改革のヒントもつかめます。
360度評価は評価した後も重要であることを覚えておきましょう。
結果を活用する場所を間違えない
360度評価の結果を導入当初から人事やボーナスといった社員の人生に関わることに活用すると、正確な評価ができなくなりがちです。
悪い評価がつけば左遷されたりボーナスがなくなったりする恐れがあれば、だれもきたんない評価をしなくなります。
その結果、当たり障りのない評価だけになり、導入した意味がなくなるでしょう。
また、360度評価がパワハラなどハラスメントの道具になる恐れもあります。
360度評価は人事やボーナスの査定以外の場所で活用しましょう。
例えば、方向性の異なる仕事が複数来たときに誰が、何を担当するかの振り分けなどに活用できます。
また、悪い評価がついたからといって人事の査定が悪くなることはないことを、周知徹底することも重要です、
まとめ 360度評価の目的を理解して活用することが大切
360度評価は、目的があって導入するならば高い効果を期待できます。
その一方で“多くの会社が取り入れているから”といった曖昧な理由で取り入れてもうまくいきません。
また、“組織改革をしたい”といった大雑把な目的より、管理職組織に新しい価値観を浸透させたいなど、具体的な目的を設置した方がうまくいきやすいです。
導入するまでに、どうすればスムーズに導入できるかサーチを行うことも重要です。