フィードバックとは
フィードバックとは、主にマネージャーからメンバーへ向けて行動に対する改善や指摘、評価を伝えることです。
適切なフィードバックは、業務改善だけでなく、メンバーのエンゲージメントや自律性の向上にも効果があります。
なお、フィードバックと似た言葉に、フィードフォワードという言葉があります。
フィードフォワードは、メンバーの過去の行動や現状に注目するフィードバックと違い、未来の目標に対してどのような行動をすべきなのかを話し合う手法です。
どちらもメンバーの業務遂行と成長のためのマネジメント手法となります。
フィードバックの目的・効果
組織がフィードバックをする一番の目的は、目標達成です。
適切なフィードバックが実施されれば、頓挫しそうなプロジェクトの軌道修正やメンバーの業務の遂行効率が高まります。
ただ、フィードバックには目標達成に関連した副次的な効果も期待できます。
以下は副次的効果の一例です。
- 自己効力や、働きやすさの向上
- マネージャーや、会社への信頼感の向上
- 業績やスキルの向上
- アウトプットの最大化による業務能力向上
- メンバーのモチベーション・エンゲージメントの向上
マネージャーからの適切な評価や指摘を受けることで、メンバーはモチベーションを維持しつつ自分の課題と向き合えます。
また、メンバーがフィードバックを受けながら課題に取り組んだ結果、スキルの向上や業務能力向上も期待できます。
このようにフィードバックは、組織全体の目標達成に大きな効果を発揮してくれることでしょう。
フィードバックの種類
フィードバックには2つの種類があります。
ポジティブフィードバック
1つ目は、メンバーのよいところに焦点をあてたポジティブフィードバックです。
「今回のプロジェクトの進め方は非常に効率がよかったと思います。ほかの人も君を見習っていました。このままのやり方で進めていってほしいです。」
といったように、ネガティブな内容はできるだけ避け、メンバーにねぎらいの言葉やよかった点を具体的に褒めていきます。
ネガティブフィードバック
2つ目は、改善点の指摘に焦点をあてたネガティブフィードバックです。
「今回のプロジェクトでは、ほかメンバーとのコミュニケーションに課題があるね。一人だけで突き進まずに、ほかメンバーと連携して進めていこう。」
上記のように問題点を指摘し、成長を促します。
ネガティブフィードバックは、自分で課題を見つけることが得意ではないメンバーや新人などに効果的な手法といえます。
しかしメンバーにストレスを与えてしまう可能性が高いため、伝える相手や言葉の選び方には細心の注意が必要です。
マネージメントでフィードバックが注目されている理由
近年、ビジネスシーンのマネージメントでフィードバックの重要性が見直されています。
なぜなら組織メンバーの多様化による対応策として、またはハラスメント問題から、フィードバック不足が生じていないかといった懸念があるからです。
時代背景による働き方の変化と共に、組織も変化していく必要があります。
適切なフィードバックは、現代における組織の目標達成に重要なことから、あらためて見直されているのです。
メンバーの多様化
終身雇用による年齢や勤続年数が主な評価基準であった時代とは変わって、転職の一般化や実力主義による評価基準の変化から組織のメンバーは多様化しています。
さらに外国人雇用や障がい者雇用を採り入れる企業も増え、障がいの有無や、国籍・年齢に関係なく、さまざまな人材が協力しあってプロジェクトを進めていく関係になっています。
多様な考え方・アイディアがもたらされた反面、メンバーの多様化による適切なマネジメント方法に悩む人も多く、打開策として、適切なフィードバックが再び注目されているのです。
ハラスメント問題
ハラスメントに対する意識が高まっている現代において、「指摘によってメンバーを傷つけてしまわないか不安」とメンバーの成長を促すための伝え方に頭を悩ませているマネージャーも多いでしょう。
そして、ハラスメント問題に発展させないために、無意識のうちにメンバーに対しての発言を最小限に留めてしまっているマネージャーもいるのではないでしょうか。
このようなハラスメント問題による意識の高まりから、メンバーへのフィードバック不足が懸念されています。
プロジェクトの目標達成とメンバーの成長促進のためにはフィードバックが重要なため、適切なフィードバック技術が注目されているのです。
マネジメントに役立つ5つのフィードバック手法
マネジメントに役立つフィードバックには、次の5つがあげられます。
マネジメントに役立つフィードバック手法
- SBI型
- サンドイッチ型
- ペンドルトン型
- FEED型
- KPT型
それぞれの手法を理解し、メンバーにあった適切なフィードバックをできるようになりましょう。
SBI型
SBI型フィードバックは、メンバーの状況に対する行動を具体的にあげ、感想を伝える手法です。
Situation(状況)、Behavior(ふるまい)、Impact(印象)の頭文字からこのように言われています。
「今日の会議でいろいろな意見を出してくれて助かりました。」
「メンバーの意見は新しい発想につながるから、これからも積極的に意見を交換してほしいです。」
上記のように、メンバーの行動を相手にわかりやすい形で評価できるのです。
そして、SBI型フィードバックは、ポジティブフィードバックだけでなく、ネガティブフィードバックにも応用が利くといった利点もあります。
サンドイッチ型
サンドイッチ型フィードバックは、ネガティブな内容をポジティブな内容で挟む手法です。
「今回の会議で多くの意見を出してくれたから、いろいろ発見がありました。」
「しかし、今回の会議とは関係値の低い意見も多かったように思います。会議の前には、意見をある程度まとめて発言をしてほしいです。」
「あなたの仕事に対する積極的な姿勢は、ほかのメンバーによい刺激となっているので、その調子で頑張りましょう。」
はじめに相手をほめることで、相手もこちらの意見を比較的受け入れやすくなります。
また、ネガティブな内容の前後にポジティブな内容を伝えることで、メンバーのモチベーションを維持したまま改善点の指摘が可能になるのです。
自己認知度の低いメンバーや、距離感がまだつかめていないメンバーなどにサンドイッチ型フィードバックは有効だといえます。
ペンドルトン型フィードバック
ペンドルトン型フィードバックとは、メンバーに自身の改善点を考えてもらう手法です。
ペンドルトン型フィードバックのフローは以下になります。
- 確認
- 良かった点
- 改善点
- 行動計画
- おさらい
マネージャーが一方的に改善点を伝えるのではなく、メンバーに改善点を考えてもらうことで、内省を促すのもひとつの目的です。
ほかの手法と比べて、時間をかけてコミュニケーションをとる必要があります。
メンバーが自分で考えて改善することで、自身の行動に責任が発生し、成長につながるのです。
FEED型
FEED型フィードバックは、Fact(行動)、Example(指摘する理由)、Effect(影響)、Different(改善策)の順で改善点を説明するフィードバック手法です。
「今日の会議で多くの意見を出してくれました。」
「会議の前にある程度意見をまとめておくと、スムーズに意見がまとまって時間短縮できると思います。」
「今のままだと、あまりにも時間がかかりすぎて会議中に意見がまとまりきらない可能性があります。」
「次回からは、スピードも意識して関係値の低い意見はあらかじめ排除しておきましょう。」
一連の流れで説明していくため、フィードバックを受けるメンバーの行動変容を促しやすいのも特徴です。
KPT型
KPTは、Keep(継続)、Problem(問題点)、Try(挑戦)の頭文字から構成されるフィードバック手法です。
KPT型は以下の3点について話し合い、改善策を導くもっともシンプルな方法です。
KPT型フィードバックの内容
- うまくいっているから今後も継続する点
- うまくいっていない改善点
- 今後取り組むべき点
現状認識の際に使われることが比較的多いです。
例えば、1年間の業務を振り返る場合や、プロジェクトの進捗を定期的に振り返る場合に用いられます。
結論に縛られないメンバーの発想を促し、さまざまな観点からアウトプットを期待できるのが特徴です。
マネジメントにおける効果的なフィードバックのコツ
適切なフィードバックを実施するには、いくつかのコツがあります。
ただ闇雲にフィードバックを実施するのではなく、コツを抑えることで、より効果的になるでしょう。
ここではフィードバックをする最適なタイミングや、フィードバック実施の際に普段から気を付けるべき点など具体的なコツを紹介します。
取り入れやすいものが比較的多いので、実践に移していきましょう。
頻度は毎日少しずつ
厚生労働省の『上司からのフィードバックの頻度と働きやすさ』のアンケートによると、「働きやすい」と受けた側が感じるフィードバックの頻度は「毎日」という回答がもっとも多く、次に「週に1度」という結果になっています。
また逆に、「働きにくい」と受けた側が感じるフィードバック頻度は「1年に1度」次に「半年に1度」です。
結果からわかるように、フィードバックは年にまとめて何度か実施するのではなく、毎日少しずつ継続すると、メンバーのエンゲージメント向上にもつながり効果的です。
参考:第2-(2)-10図 上司からのフィードバックと働きやすさについて|厚生労働省
フィードバック対象をはっきりさせる
何に対してのフィードバックをしているのか、対象がはっきりしていないと、重要なことが伝わりにくくなったり、メンバーとの関係が悪化してしまいます。
前置きや、個人的感情を長々話すのではなく「よかった点と改善点をそれぞれ2つ伝えます」と内容を具体的に伝えるようにしましょう。
判断基準を「相手の成長のため」と割り切ると、メンバーの成長につながるフィードバックを実施できます。
行動後すぐにフィードバックをする
心理学者のヘルマン・エビングハウスの忘却曲線にもあるように、行動から時間が経過すると人間は忘れてしまう生き物です。
「1か月前のあの資料のまとめ方はわかりやすくてよかったよ」とマネージャーに言われても、「どの資料が褒められているのか」「自身が何に気を配って資料を作成したのか」を正確に思い出せないのです。
せっかくのフィードバックもタイミングが遅すぎると、次に活かすことが難しくなってしまいます。
マネージャーはアンテナを張って、メンバーの小さな行動に対してポジティブフィードバックを欠かさないようにしましょう。
そうすると、メンバーの心理的安全性や承認欲求が満たされ、モチベーション向上による行動変容が期待できます。
可能な限り具体的に伝える
フィードバックは可能な限り具体的に伝えるよう心がけましょう。
なぜなら、抽象的なフィードバックは、効果を実感しづらくなってしまうからです。
よかった点や改善点だけを伝えるのではなく、「どこをどのように改善してほしいのか」「メンバーにとってほしい行動」をできるだけ具体的に伝えるのです。
さらに、意義や背景をしっかり伝えることで、メンバーの課題に対する意識に変化を与えられます。
信頼関係を日頃から築いておく
メンバーとの信頼関係の構築はフィードバックを有効にするために欠かせません。
なぜなら、誰からフィードバックを受けるかで、メンバーの受け取り方が大きく変化するからです。
信頼しているマネージャーからの指摘は「成長のために言いづらいことも言ってくれている」と思えますが、そうでないと「この人は何も分かっていないのになんて偉そうなんだろう」と考えてしまうのです。
マネージャーは、メンバーと1on1ミーティングなどを活用して定期的なコミュニケーションを欠かさず、いつでも適切なフィードバックができる信頼関係を築いておきましょう。
ほかのメンバーと比較しない
ほかのメンバーと比較したフィードバックは、対象がぼやけてしまうことと、他人との比較によってストレスを感じる人は多いため避けましょう。
「あなたは〇〇さんよりも早く入社したのに、仕事が遅いね」といったように、フィードバックをする側は言ってしまいがちですが、受け取る側はネガティブな印象を受けてしまいます。
他人と比較するのではなく、メンバーの過去と比較をして、よくなったところ、変われていないところをフィードバックしましょう。
シチュエーション・態度に気をつける
フィードバックの際は、シチュエーションと態度に気を付けましょう。
特に、ネガティブフィードバックの場合、口調や言葉が高圧的だと、メンバーは「叱られる」「否定される」と感じて萎縮してしまいます。
そして、シチュエーションもできるかぎり1対1になるように心がけましょう。
ネガティブなフィードバックを人前でされてしまうと、メンバーは落ち着いてフィードバックを聞き入れられません。
メンバーの行動変容を促すには、メンバーがリラックスできるよう、マネージャーはシチュエーションと態度に気を配る必要があります。
フィードバックに最適なシチュエーション
前述したとおり、フィードバックをより有効なものにするためには、TPO※1が非常に重要です。
ここでは、フィードバックに最適なシチュエーションをいくつか紹介します。
フィードバックに適したシチュエーションを理解し、よりよいフィードバックを実施しましょう。
※1:「TPO」とは、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場面)の頭文字を取った略語であり、時と場所、場合に合わせて行動や言動をわきまえることの意味
評価面談
年に1度または、半年に1度行われる評価面談は、フィードバックをするいい機会です。
評価面談は、メンバーと1対1で話ができ、評価する点と、改善すべき点を長期間にわたって振り返りながらフィードバックできます。
また、メンバーが何かしらのフィードバックを受けるという心構えができているという点でも、伝えやすいシチュエーションです。
特にネガティブフィードバックが必要な際には、評価面談は適しているでしょう。
しかし、評価面談が実施される頻度は少ないため、業務の細かなフィードバックというより全体的な中長期的なフィードバックを心がけましょう。
1on1ミーティングとは
ヤフー株式会社やグリー株式会社などのIT系企業も導入している1on1ミーティングは、フィードバックを伝えるのに適したシチュエーションです。
なぜなら1on1ミーティングは、メンバーが困っていることや課題に感じていることをマネージャーに伝え、それに対してフィードバックを受け取る構造になっているからです。
マネージャーはメンバーがいま課題に感じている部分に対してのフィードバックをすることができ、週に1度など定期的な時間を確保できるため、業務に追われずにじっくりと話せます。
ミーティングや商談後の5分間
ミーティングや、商談の直後にフィードバックをすると、メンバーはよかった点と、悪かった点がタイムリーに理解できます。
メンバーは、自身がどう判断をし、感情はどうだったかを簡単に思い出せるので、フィードバックが課題に対して反映されやすいです。
また、たとえメンバーが失敗をしてしまっても、すぐにフィードバックを受け取れるので、心の切り替えにも有効です。
ランチや飲み会の席
くつろいだ場で、日々の業務以外も気軽に話せるランチや飲み会の席は、親密に話ができるのでフィードバックにおすすめです。
メンバーは、マネージャーに時間をかけて聞いてもらえるため、悩みや本音が話しやすくなります。
しかし複数人でのランチや、飲み会の席でのネガティブなフィードバックは、メンバーに恥をかかせてしまう可能性が高くなります。
メンバーの気持ちや周りに配慮しつつ話す内容と量には十分気をつけましょう。
また、業務に関することよりも、よりフランクな内容のフィードバックのほうがこのシチュエーションには向いているでしょう。
まとめ
マネージメントにおけるフィードバックの有効な手法とコツを理解していただけたでしょうか。
メンバーの特徴とシチュエーションに応じた手法を組み合わせると、フィードバックがメンバーに伝わりやすくなるのです。
ぜひ本記事にて紹介した内容を実践に移してみてください。