離職者が増えているのはなぜ?
厚生労働省が実施した雇用動向の調査によると、男性の入職率が 12.5%、離職率が 12.8%、女性の入職率が 15.7%、離職率が 15.3%でした。
これは日本全体の平均であり、2020年度に比べると離職率は低下しています。
しかし、これはあくまでも日本全体の平均のため、離職率が高くなって困っているという企業も多いことでしょう。
特に、宿泊業・飲食サービス業や教育・学習支援業の離職率は高止まりが続いています。
参考:厚生労働省『-令和3年雇用動向調査結果の概況-』
ここでは、離職者が増える理由などについて解説します。
終身雇用が当たり前でなくなった
かつて日本では、終身雇用が当たり前でした。
多少問題があっても大きな成果が残せなくても定年まで雇ってくれるのなら、多少嫌なことがあっても我慢しようと思えます。
企業側も、定年まで雇うという強みがあるからこそ、社員に少々無理をさせることもできました。
しかし現在は、リストラや早期退職などが当たり前となり、会社側も従業員を定年まで雇う意識が薄れています。
その一方で、まだ終身雇用が当たり前だった頃と同じように従業員に無茶をいう経営者も少なくありません。
その結果、若い年代ほど会社に見切りをつけやすくなっています。
会社側が従業員に安心して仕事に集中できる環境を整えてあげられなくなったときは、離職者は増える可能性もあるでしょう。
転職がマイナスイメージではなくなった
終身雇用が当たり前でなくなると同時に、転職へのマイナスイメージも薄くなっていきました。
終身雇用が当たり前だった頃転職をする方は少なく、中途社員を受け入れる会社も一部を除きあまりよくない条件のところが多かったのです。
しかし、現在は転職は珍しくありません。
自分の実力を活かすために転職する方も当たり前になりました。
また、インターネットの発達により転職に関する情報やサポートも手厚くなりました。
現在は特定の職種に特化した転職サイトも増え、仕事をしながら転職活動も容易です。
企業側も労働人口の減少から、中途入社の従業員を積極的に雇用するようになっています。
会社によっては社員の半分以上が中途入社の従業員、というケースもあるでしょう。
転職へのハードルが低くなったことも、離職者が増えている原因の1つです。
このほか、近年は急速にリモートワークが進んだことから、働き方も多様になりました。
地方にいながら、東京や大阪など都市部の会社に勤めることも、職種によっては可能です。
それもまた、転職の容易さに拍車をかけていると言えます。
企業に対するエンゲージメントが低下
従業員の企業に対するエンゲージメントとは、“忠誠心”や“絆”といった意味を持ちます。
従業員が会社の理念や目標などに共感しているほど、エンゲージメントが高いといえるでしょう。
1990年代半ばまで、会社第一の従業員は決して珍しくありませんでした。
ドラマや小説などでも、人生をかけて会社に尽くす社員がよく登場しています。
会社のほうも終身雇用や年功序列型の出世という形で、従業員の貢献に応えていました。
会社員ならば、会社に貢献して当然といった空気もありました。
しかし現在は、無条件に会社に忠誠を尽くそうという従業員は少ないです。
会社が自分にとってメリットがないとわかると、躊躇なく転職活動をするという方も多いでしょう。
市場価値が高い若い年代ほど、転職活動に抵抗がありません。
また、実力がある人なら会社に特に不満がなくても「さらに自分の能力が活用できる職場があるのでは」と思ったら、転職活動を積極的になることもよくあります。
なお、エンゲージメントは従業員が働きやすい環境を整え、福利厚生を手厚くしても低下する可能性があります。
ですから、エンゲージメントが低いからといって一概に企業の質が悪いとは限りません。
だからこそ、エンゲージメントの向上に頭を悩ませている企業も多いことでしょう。
離職者が増えるとどうなる?
就職求人市場は買い手市場と売り手市場を繰り返しています。
2000年代はどちらかというと買い手市場の時期が長く、特に就職氷河期の時代は圧倒的な買い手市場でした。
近年も、社会情勢からホテルや旅行業界などは求人を控えていたため、一部が買い手市場だったこともあります。
買い手市場のときに採用する側だった方の中には、「離職したい者は離職させて、また新しい従業員を雇えばよい」と考えているケースもあるでしょう。
しかし労働人口の減少を考えると、これまでのように募集をすれば、すぐに就職希望の方が来る可能性は少なくなります。
そうなれば、会社にも悪影響が出てくるでしょう。
ここでは、会社で離職者が増えるとどのような悪影響があるのか、具体的に解説します。
また、近年急に離職者が増えた場合は、その理由を確かめることも重要です。
社員全員のモチベーションが低下する
離職者が増えれば、残った従業員の負担が増します。
会社が大規模で従業員の人数が多ければ、1人が負担する量は少ないかもしれません。
しかし、今までやったことのない仕事を新たに覚えるのは大変でストレスもかかるでしょう。
仕事が回せるギリギリの人数の従業員しかいなければ、負担はさらに大きくなります。
また、新しい従業員が来てもすぐに負担が減るわけではありません。
優秀な方であっても、新しい職場で一通り仕事を覚えるのは時間がかかります。
そして、残された従業員には“新入社員を教育する”という新しい負担も生まれます。
特に、新卒社員は1~2年はじっくりと時間をかけて教育しなければ戦力にはなりません。
それなのに、仕事を覚えたタイミングで離職されてしまえば、教育を行った社員は「自分は何のために仕事を教えたのか」と徒労感を覚えることでしょう。
このほか離職者が定期的に発生し、人員の補充が間に合わないと残された従業員は日々のルーチンワークをこなすだけで手一杯になってしまうかもしれません。
人員不足が深刻になると、残業が当たり前になることもあるでしょう。
新しい仕事をしたいと思っても、その余裕もなくなります。
このようなことが続けば、やがて従業員全員のモチベーションが低下します。
モチベーションが低下すれば、仕事を続けようとする意欲も低下するでしょう。
同僚が次々と離職していく様子を見れば「自分も」と考えてしまうかもしれません。
こうなると、離職の連鎖が始まることもあるでしょう。
会社の競争力が低下する
従業員は数ではなく、質が大切です。
新入社員100人より、ベテラン従業員10人いたほうが仕事が効率的に進むでしょう。
新規の会社より創立してから年数がたった会社のほうが競争率が高めなのは、ベテラン従業員が多数育っているためです。
離職者が増えることは、会社の競争力が低下することでもあります。
特に、ベテラン従業員が複数人離職すれば、短期間で急速に会社の競争力が低下することもあるでしょう。
なお、新入社員が短期間で離職しても大きなダメージが残ります。
新入社員は、会社の将来を担う財産です。
中途入社の従業員よりエンゲージメントが向上する可能性も高いでしょう。
そのような人材が離職すれば、従業員の教育にかけた時間も無駄になってしまいます。
また、現在は情報が広まるのも早いので、離職者が多ければインターネット等を通じて就職市場に情報が出回る可能性もあります。
転職活動をしている方は、情報収集にも熱心です。
離職者が多い会社は、「何か問題があるのでは」と思われることもあります。
特に、ベテランがまとめてやめたり短期間で新入社員が次々と離職したりする会社は、評判が低下しがちです。
会社の評判が低下すると発生しやすいリスク
- 新しい人材を入れたくても応募者が来ない
- 社員の負担が増えてモチベーションが低下する
- さらに離職者が増える
この3つが繰り返される悪循環に陥る可能性もあるでしょう。
離職者の増加をくい止める対策とは?
離職者をゼロにすることはできません。
しかし、離職者の増加をくい止めることはできます。
ここでは、会社側ができる離職者の増加を防ぐ方法を解説します。
どのようなことが効果的なのか、参考になさってください。
社内状況を把握する
離職者が増えるということは、社内で従業員のモチベーションを低下させるようなできごとが長期間に渡って起こっている可能性が高いです。
会社の規模が大きいほど、社内の問題は見えにくくなりがちです。
離職者が相ついでいる場合、まずは社内の状況を正確に把握しましょう。
状況がわからなければ、対策は立てられません。
大切なのは、ある程度時間をかけることです。
急ぎすぎると、事態が隠蔽される可能性もあるでしょう。
また、マネージャーのみに話しを聞いても、メンバーのみ話しを聞いても事実がゆがめられる可能性があります。
いろいろな立場の方から均等に話しを聞きましょう。
必要ならば、すでに離職した方から話しを聞くことも大切です。
困難な仕事ですが、時間をかけて行いましょう。
会社側が事態を把握しようと動いているとわかるだけで、離職しようとする従業員を押しとどめられる可能性があります。
調査の結果、経営陣の介入によって事態の収集が図れるならできるだけ早く介入しましょう。
経営者側が問題解決に動いてくれるとわかれば、従業員も安心できます。
経営者側が問題解決に対して消極的だと事態はより悪化する恐れもあります。
一時的に業務に支障が出る可能性があっても、問題解決に必要ならば思い切った決断を行いましょう。
長い目で見ればプラスに働きます。
コミュニケーションをしっかりと取る
従業員にとっても、転職活動は大きなストレスです。
現在の職場よりよい条件のところに出会えるとは限りません。
仕事に慣れるまで心身共に負担がかかるでしょう。
それでも転職を決断するのは、職場でのコミュニケーションが不足している可能性もあります。
問題が起きたとき従業員同士やマネージャーとメンバーでしっかりとコミュニケーションが取れていれば、話し合いで問題解決が図れます。
しかし、従業員がマネージャーとコミュニケーションを取るのを諦めていると、話し合うより離職を選択するでしょう。
なお、従業員同士のコミュニケーションには雑談も含まれますが、雑談だけではいけません。
昼休みなどに仕事と関係ない話しでよく盛り上がっていたとしても、仕事や会議中はメンバーが何も言わなければ、コミュニケーションが取れているとはいいがたいです。
ビジネスにおけるコミュニケーションとは、仕事で改善点が見つかったときや問題が起こったときに同僚やマネージャーときたんない意見を交わせることです。
離職者が増えてきたら、マネージャーはメンバーとコミュニケーションを取る努力をしましょう。
仕事や人間関係で悩んでいることはないかなど、1on1ミーティングなどいろいろな手段を用いて聞き出す努力が大切です。
また、経営者側もマネージャーから意見を聞くことが重要です。
ただし、離職者が増える理由はコミュニケーション不足だけとは限りません。
コミュニケーションが十分にうまくいっていても、離職者が増えることもあります。
反対に、特定のコミュニケーションが不足していても職場の環境が悪化することもあるでしょう。
コミュニケーションはデリケートな問題なので、一朝一夕で改善は難しいです。
1on1ミーティングなどでコミュニケーションを改善したい場合は時間をかけて行っていきましょう。
労働環境の改善
いくらモチベーションが高い従業員でも、労働環境が悪いとやる気は低下していきます。
特に、人手不足は早々に解消できる問題です。
誰か1人が休んだり早退したりしたら仕事が回らなかったり、何時間も残業しなければ仕事が終わらなかったりする場合は明らかな人手不足といえます。
今までは、少人数で仕事ができていた場合でも、状況が変われば人手不足になる可能性があります。
また、賃金の問題、過剰なノルマなど解決すべき問題が見つかった場合もできるだけ早く対処することが大切です。
例えば、パートやアルバイトに社員並の責任感を求めれば、離職を考える方も増えます。
このほか、過剰なノルマを課して達成できなければ自分の給与から補てんするように求められれば、何のために働いているのかわからなくなることもあるでしょう。
会社としても目標があると思いますが、無理をしすぎてもうまくいきません。
現場の意見に耳を傾けることが大切です。
福利厚生の充実
会社が従業員に提供できる福利厚生にはいろいろな種類があります。
社会保険、雇用保険、労災などのほか、休暇も福利厚生の一部です。
休暇というと、産休や育児休暇をイメージする方も多いですが、これから増えていくと考えられるのは介護休暇です。
現在は兄弟がいない方も多く、生涯未婚の方も増えています。
もし、親が要介護になった場合は自分が看るしかないというケースもあるでしょう。
産休や育児休暇が20代~30代の若い女性限定なのに対し、介護休暇は30代~50代の幅広い世代が突然必要になる可能性もあります。
現在は要介護になっても施設に預ける選択肢もありますが、要介護になってすぐに施設に預けられるとは限りません。
3か月後、半年後に預けられるといったケースも多いです。
したがって、介護休暇が使えない場合は離職せざるを得ないケースもあるでしょう。
30代~50代は仕事も一通り覚え、重要な戦力になってくれる年代です。
そのような方が離職してしまったら、会社にとって大きな損害でしょう。
今までは必要はなかったが、これから需要が増えていく福利厚生は積極的に導入できるようにしましょう。
ただし、福利厚生は整備したが実例がなければ意味がありません。
育児休暇が欲しい、介護休暇が欲しいという従業員がいたら、会社側がスムーズに応えられるようにすることが大切です。
離職者が増えてきたら早めに対処しよう
離職者は、ある日急に増えるわけではありません。
従業員も職場を何とか変えようとして努力したけれどどうにもならず、離職を選ぶこともあるでしょう。
自己実現やレベルアップを目指して従業員が離職する場合、会社も引き留めようがありません。
しかし、これ以上会社で働けない、という理由で何人も離職する場合は、早急な改善が必要です。
2~3か月ごとに人が離職しているなら、一度時間をかけて離職を選ぶ理由を調べてみましょう。
早く対処するほど、改善もしやすくなります。
仕事に支障が出るほど離職者が出たり、社員全員のモチベーションが低下したりしてから動いても遅いのです。
マネージャーと経営者、マネージャーとメンバーがしっかりとコミュニケーションを取れていれば、原因もわかりやすいでしょう。