ビジネス界でセルフマネジメントスキルに関心が集まるわけ
現在、多くの企業が業種を問わず、セルフマネジメントスキルに注目しています。
しかし、以前よりセルフマネジメントに着目していた企業もいます。
日本経済新聞の10年以上前の記事中にも、“セルフマネジメント”という言葉が使用されていました。
各企業が、足並みをそろえるになった現在までを、直近のきっかけから遡るように説明していきます。
リモートワークの広がり
セルフマネジメントスキルに各社が興味を持つ直近のきっかけと言えば、何と言ってもリモートワークの導入でしょう。
従来ならマネージャーが、メンバーの業務を監視できました。
両者が常に業務をともにするわけではない営業の部門でも、ある程度はメンバーの状態を確認できたのです。
逆にメンバーからしてみるとマネージャーに見られていることが、仕事への緊張感につながっていたのではないでしょうか。
マネージャーの目が届かない場所で仕事をするようになったからといって、メンバーが結果を出さなくてもよくなったわけではありません。
メンバーが、セルフマネジメントスキルを求めはじめたのは必然でしょう。
働き方改革
“働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)”が公布されたのは、リモートワークの普及がはじまる少し前の2018年7月6日でした。
国力の回復
少子化により、日本の人口が減り続けていますが、
人口が減少すれば労働力が減少し、国力も低下します。
現在のところ1億を超えている人たちに、可能なかぎり国力の回復に貢献していただくことを実現しようというのが働き方改革の目的です。
目的を実現するため、国が着目したのが働きやすさの向上でした。
減っていなかった働く時間
日本の経済が絶頂だったのは、1980年代です。
当時の日本では、長時間の勤務をする従業員ほど高く評価されました。
1980年ごろは平均すると、1年に2,100時間も日本人は働いていたのです。
しかし、1986年と2011年を比較すると、1日の平均的な労働時間は0.4時間ほど増加していました。
増えることはあっても減る気配の見えなかった日本人の働く時間を減らし、働きやすさを向上させる必要があります。
各企業に求められているのは、従業員1人ひとりの効率的な労働です。
個々の従業員が、セルフマネジメントスキルに関心を持つようになったのは、時間当たりの生産性を上げる必要性に迫られるようになったからです。
マネージャーからの指示をいちいち待っているようでは、スピーディーな仕事の進捗はありえません。
それぞれの従業員がセルフマネジメントスキルを身につけ、自発的・効率的に動けるようになることで、生産性のアップが可能となるのです。
参考:リクルートマネジメントソリューションズ『日本の正規社員の平均労働時間は30年減っていない』
“マネジメントの父”ピーター・F・ドラッカー
ここのところ脚光を浴びはじめたかのようなセルフマネジメントですが、概念そのものが生まれたのは20世紀のことでした。
有名なアメリカの経営学者ピーター・F・ドラッカーが、論文(Managing Oneself)の中で“セルフマネジメント”の重要性について言及していたのです。
1999年のハーバード・ビジネス・レビュー誌に投稿していました。
セルフマネジメントについて最近知った人は、セルフマネジメントスキルを調べるうちに、耳にしたことのあるドラッカーの名前に遭遇します。
そして、セルフマネジメントの効果を確信。
セルフマネジメントスキルの習得に、より熱心となるのでしょう。
参考:Harvard Business Review『Managing Oneself』
ドラッカーについて書かれた記事は、次の記事を含め、サイト内に多数あります。
『管理とマネージメントの違いとは?目的や役割から徹底解説!』
少子化
働き方改革がはじめられたきっかけは、この少子化にあると言えます。
アメリカの社会学者エズラ・F・ヴォーゲルは、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という1979年発行の著書で日本の経済を称しました。
日本の国力を当時に戻すことを主な目的として、働き方改革の議論がスタートしたのです。
セルフマネジメントスキルに、多くの人たちが興味を持つきっかけの1つが少子化です。
内閣府は“平成4年度国民生活白書”以降に、“少子化”ということばが盛んに使われるようになったとしています。
少子化への認識⇒ドラッカーの提唱⇒働き方改革⇒リモートワーク
ここでの説明とは逆にこの順序で、セルフマネジメントへの認知が、時間をかけながらも高まってきたと考えていいでしょう。
参考:内閣府『平成16年版 少子化社会白書第1部第1章第1節』
セルフマネジメント力を向上させるための6つのスキルを解説
何をするにしても、ひたすら頑張るのみでは望んでいる成果は得られないでしょう。
現在、セルフマネジメントには、多くの人が注目しているのです。
効率的にセルフマネジメント力をアップさせるスキルや理論も、すでに構築されています。
ドラッカー以降も多数の有識者により、研究が進められてきました。
科学は、人類のために発展してきたのです。
有効に使うべきでしょう。
1.目標のマネジメント
目標を達成するために自身を律するのが、セルフマネジメントです。
目標のマネジメントは、もちろん大きく関わってきます。
大きな目標とマイルストーン的目標の設置
まず考えるべきは、自身が仕事や人生で理想とする大きな目標です。
この段階で的を外した目標を設定してしまうと、モチベーションの維持に悪影響を及ぼします。
大きな目標が決まれば、現在の地点からできるかぎり短いルートを考えるのがいいでしょう。
さらにそのルートの各所には、マイルストーンのような存在の小さな目標を設定することが推奨されます。
大きな目標のみでは、達成前にモチベーションの維持できなくなる可能性が高まるからです。
少しずつの頑張りを積み重ねて、当初に目標としていた大きな目標を、できるかぎり少ない努力で達成するイメージです。
目標の決め方について、次の記事でさらなる深掘りをしてみるのもいいのではないでしょうか。
『目標の決め方とは?適切な設定のコツや注意すべきポイントを解説!』
はっきりとした目標の設定
目標の設定に有効な方法には、SMARTの法則・ベーシック法・ベンチマーキング法などがあります。
いずれも下記の項目が、共通していることに気づいたのではないでしょうか。
- 具体的
- 数字
- 期限
- 目標の達成が可能
目標を成し遂げられれば、自然と喜びが湧いてくるでしょう。
また、目標の達成を周りから評価されれば、モチベーションの維持もしやすくなります。
目標を達成したときの自身をイメージ
目標を達成したときをイメージすることは、スポーツ選手の多くが用いる方法で、ビジネスパーソンにも非常に有効です。
たとえ困難な目標を設定したとしても、達成により得られるベネフィットの大きさをイメージできれば、やる気も湧いてくるでしょう。
目標となる優秀な人材
お手本とするべきハイパフォーマーが会社やチーム内に見つかれば、自身の目標をマネジメントする絶好のチャンスです。
人は、あこがれの存在からの影響を大きく受けます。
理想的なお手本を日々、しかも身近で目の当たりにし続けられるのです。
モチベーションの維持が容易となり、目標への到達に及ぼす影響は大きくなるでしょう。
2.時間のマネジメント
働き方改革により、長時間に及んで働くことが美徳とされた、かつてのような時代ではなくなりました。
計画的に、効率よく仕事を進めることが求められています。
時間のマネジメントをうまくできない人は、“時間=有限の資源”と考えていない可能性が高いのではないでしょうか。
仕事を先延ばししたり、頼まれたらすべてを引き受けてしまったり、納期の直前まで仕事をはじめなかったりする原因の多くはそのためでしょう。
常にスケジュール帳を持ち歩き、時計を気にしているくらいでいいのです。
3.感情のマネジメント
感情のマネジメントのうまくない人は、感情の中でも特に“怒り”の感情を抑えきれなくなる場面が増えてしまいます。
1度でもトラブルを起こしてしまうと、人間関係にも支障をきたすかも知れません。
円滑な仕事の継続が難しくなり、仕事の遅延も生じかねないのです。
さらに、悪影響は、本人のみにとどまるのではありません。
職場の全体的な雰囲気にも関わってきます。
怒りの感情は、積極的にマネジメントするべきです。
いかなる状況下でも、ほかの人への尊重を忘れない怒りの感情マネジメントがうまい人を、組織内に増やすべきでしょう。
常に、相手の身になって考えられる人たちで組織内が満たされれば、雰囲気のいい職場となり、いわゆる風通しがよくなります。
メンバー同士のみならず、メンバーがマネージャーに相談を持ちかけるときにも、心の負担は小さくて済むでしょう。
チームワークの向上は、チーム全体の仕事のクオリティーアップにもつながります。
また、従業員1人ひとりのモチベーションやエンゲージメント向上は、離職率を低下させる一因ともなり得るのです。
怒りの感情のマネジメントは“アンガーマネジメント”とも呼ばれ、誰しもが使えるように理論が構築されています。
アンガーマネジメントに関する書籍も出版されています。
スキル向上は難しくないでしょう。
4.ストレスマネジメント
ストレスがかかったとき、受動的にひたすら耐えている人が多いのではないでしょうか。
ストレスを単に我慢で乗り越えようとするのは、健康的とは言えません。
レジリエンス(ストレスや困難に対してしなやかに適応し、心を回復させる力)を向上させる方法があります。
以下に紹介する方法でレジリエンスを高め、かかったストレスにうまく対処することが推奨されます。
コーピング
コーピングにもいくつかありますが、大きく次の2つに分けられます。
(1)問題焦点型コーピング
自身の努力や周囲の協力により、ストレス要因に働きかけ、要因そのものを変えることで対処するのです。
例えば、仕事が長時間におよび、ストレスを感じたときには、業務の効率を上げる方法を考えるのが、自身の努力に該当します。
周囲の協力を仰ぐ場合は、担当する業務を変えてもらうよう、マネージャーに願い出る場合などが当てはまります。
(2)情動焦点型コーピング
ストレス要因そのものには、フォーカスしません。
自身の感情にフォーカスし、変えるのです。
新しい勤務地にストレスを感じる場合もあるでしょう。
「自身の能力が会社から評価・期待されている」などとプラス方向に考えるのが、情動焦点型コーピングです。
マインドフルネス
現在、マインドフルネスを取り入れる企業は、少なくありません。
心が今に向かっている状態が、マインドフルネスです。
未来への不安や過去のエラーといった、ストレスの要因となるネガティブなものから離脱するのです。
マインドフルネスの状態に達するためには、めい想がよく用いられます。
マインドフルネスについては、次の記事でも言及があります。
『今注目されているセルフマネジメントとは?メンバーの能力を引き出す方法を解説』
5.健康への配慮
いわゆる“できる人(ハイパフォーマー)”は健康への配慮が万全で、やる気に満ちあふれています。
また、主に次の点に気をつけている場合が多いです。
- 栄養バランス
- 良質で適度な量の睡眠や体内時計のマネジメント
- 適度な運動
- 酒やたばこなどの節制
6.セルフモチベーション
自身のモチベーションをマネジメントして、向上させる方法がセルフモチベーションです。
ここまで紹介した中では、例えば“1.目標のマネジメント”もセルフモチベーションを高めるスキルとして考えられます。
セルフマネジメントとの違い
セルフマネジメントとセルフモチベーションは違います。
両概念は、セルフマネジメントがセルフモチベーションを包み込むような関係にあります。
仕事のマネジメントなどは、セルフモチベーション向上スキルには入りません。
また、セルフモチベーションは、高い効果を見込めるスキルです。
セルフモチベーションを身につけることのみでも、生産性アップや仕事を早期に完了させることなどが期待できるでしょう。
3つのモチベーション
次に、ベストセラー『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』の著者ダニエル・ピンク氏の、「内発的動機づけ(モチベーション3.0)にこそ注目すべき」とする考え方について説明します。
ピンク氏は同書内で、動機づけを以下のように3つに分けています。
- モチベーション1.0(生理的動機づけ)
- モチベーション2.0(外発的動機づけ)
- モチベーション3.0(内発的動機づけ)
モチベーション1.0(生理的動機づけ)
モチベーション1.0は、睡眠・飢え・渇き・排せつなど、人類が本来持っている原始的なやる気のすべてを指しています。
例えば「お腹が空いたからご飯を食べよう」や「体を休めるために眠ろう」などです。
モチベーション2.0(外発的動機づけ)
モチベーション2.0の具体例は、昇給や降格などです。
動機づけの対象となる人物に外部から刺激を加えることで、対象者にやる気を出させるときの外部からの刺激を指しています。
いわば“アメとムチ”のことです。
モチベーション理論はモチベーション1.0の登場からはじまり、続いてモチベーション2.0が登場しました。
モチベーション3.0(内発的動機づけ)
クリントン政権下で、副大統領だったアル・ゴア氏の主席スピーチライターを務めたピンク氏が本書の中で提唱したモチベーション3.0は、自身の内側から湧き上がるやる気を指しています。
具体的には次のようなやる気です。
- 自身の向上のため頑張る
- 世の中の平和のために働く
- 楽しくてしかたがないから、徹夜も苦にならない
モチベーション3.0(内発的動機づけ)を高める方法
(1)自主性の尊重
従業員の自主的な決定を、できるかぎり多く認めてあげるのです。
任せられていることを実感した従業員のやる気は、自然と高まります。
(2)承認欲求の満足
従業員の「ほかの人から認められたい」という、人間が本来持っている欲求を満たしてあげることを考えます。
社内での表彰などが、例としてあげられるでしょう。
特に、若手の従業員は、承認欲求が強い傾向にあります。
チーム内での親切・丁寧なサポートを長期にわたって継続するなどすれば、組織との一体感が感じられるため効果的です。
まとめ セルフマネジメントスキルを身につけるまでの期間を考慮
セルフマネジメントスキル獲得に向けた研修会を開くのもいいのではないでしょうか。
いくら優秀な従業員であろうと、セルフマネジメントスキルをすぐには習得できません。
決して急がず、それなりの期間を想定してあげるべきです。
スキルが身につくと、仕事のみならず私生活や人生の、背中を押すような存在となってくれます。
人生のすべてが充実した従業員の、職場や企業に対するエンゲージメントも向上するでしょう。