登壇者プロフィール
株式会社RECOMO
代表取締役CEO
橋本 祐造 氏
1978年生まれ。2002年に早稲田大学卒業後、NHKに入局、営業職として従事。その後、人材コンサルティング会社を経て、GMOインターネット株式会社で人事として活躍。
以来、複数社で人事責任者として全社の人事戦略の策定や実行に携わる。2019年4月に株式会社RECOMOを創業。「人の可能性・価値を最大に広げる社会を創ること」を理念に掲げる。
▼「RECOMO」へのURLはこちら
https://zapass.co/
株式会社ZENKIGEN
revii事業部 プロダクトマーケティングマネージャー
東 壌
2012年に株式会社大塚商会へ新卒入社し法人営業に従事。2014年に株式会社マイナビに入社し、法人営業や事業部内人事を担当。2020年にアイセールス株式会社に入社し、営業部長と人事責任者を経て、2022年より現職。
▼「revii(リービー)」へのURLはこちら
https://revii.jp/
人を活かすマネージャーとそうでないマネージャーの違い
東: 人を活かすマネージャーとそうでないマネージャーの違いは何でしょうか。
橋本 氏: 人の特性を見抜いてマネジメントができるかどうかだと思います。私がマネジメントをしてもらった二名のマネージャーを例に説明します。
一人目のマネージャーは、スケジュールなどきっちり決めていくタイプの方でした。このようなタイプのマネージャーと仕事をすると、自分の可能性を伸ばすことができなくなるのではと感じていました。
二人目のマネージャーは、私の特性や得意技を最初の段階で見抜いて、権限の委譲を異常なまでにしてくれました。「ここからここの領域は橋本さんに任せる」「僕はその領域はわからないので教えてください」とも言われました。
また、「今の時期にヒットを狙わなくていい。とにかくホームランだけ狙ってみてください。三振したら一緒に土下座して俺が率先して謝るから、気にするな。とにかくホームランを打て」と言われました。結果的にその人との仕事では自分の全力を出したいと思い、非常にハードワークな会社でしたが、1ミリも辞めたいと思いませんでした。
東: メンバーの特性を見抜き、適切なマネジメントを取られているんですね。多くのマネージャーは他の業務に追われていて、なかなかそういったマネジメントをできていない気がします。
橋本 氏: 自ら忙しくしてしまっているマネージャーの方が多く、プレイングマネージャーであることが当たり前かのように思い込まれています。しかし多くの企業様は、プレイングマネージャーになって欲しいわけではありません。
会社をよくしたり利益を生み出したりしてほしいというのが本来の目的で、手段にプレイングマネージャーがあります。手段と目的を逆にするとおかしくなってしまいます。
——カレンダーの予定を見直すと見えてくるマネージャーの責務
東: ミドルマネージャーの育成が一番のポイントだとおっしゃる企業様が多くいますが、マネージャーが忙しすぎて手が回らないと聞きます。
橋本 氏: 忙しくてピープルマネジメントに手が回らない方に共通するのは、カレンダーが朝から晩まできっちり予定が詰まっていることです。
マネージャーの仕事は部署をマネジメントすることや、会社や事業部を経営する仕事です。課題解決はメンバーでもできますが、少し先の未来を見据えるのはマネージャーだからできることでしょう。
ほかの企業様に「未来ついて考える時間を1週間で何時間くらい取れていますか」と聞くと、99%は0時間です。
そこで、予定を1回すべて消して、しなければいけないことだけを予定に組み込むと、100%の確率で予定がスカスカになります。要は、忙しさは思い込みですね。
東: 今日ご参加されている方も、まずはカレンダーの予定を断捨離できそうですね。
橋本 氏: まずは1か月後や2か月後の予定をすべて消してみてください。非常にすっきりするのでおすすめです。最近お客様には、予定をブロックしみてもらってたりします。
東: 通常のメンバーとは違う、マネージャーの視座で物事を考えるのがファーストステップですね。
マネージャーとは「信じて・任せて・責任を取る」人
東: 先ほどお話に出てきたマネージャーのように「ホームラン狙って、ダメであれば、一緒に土下座しに行こう」みたいなマネジメントは勇気がいるなと思います。
権限委譲も大事だと言われつつ、なかなかできないと悩むマネージャーも多いと思います。この辺について教えていただいてもよろしいでしょうか。
橋本 氏: 私が行うセミナーの中に「相互理解ワーク」というものがあります。
例えば「会社として一体感を持っていこう」「この部署は一つの方向性で向かっていこう」のような目標があれば、みんなで頑張ろうとします。
そこで「強い組織やチームとは何ですか」と皆さんに聞くと、やはり「お互いのことをきちんと信頼し合っている」のような回答を得ます。
そこで隣に座っているAさんは今どのようなことに悩んでいて、今までどのような仕事やってきたのかと聞くと、「さあ……」みたいな反応になります。
お互いのことを信頼し合うためには相互理解が欠かせません。その上で人を理解するときに必要なことは、互いに話をすることです。
例えば結婚する相手を選ぶときに、相手が一体どのような人生を歩んでどのような考え方を持っていて、どんな楽しいことや辛いことがあって、将来的にどう人生を生きたいかを話した上で、結婚する相手を決めると思います。仕事も一緒ですよね。
——日頃からの相互理解は深まっているか?
橋本 氏: 前提として「信じて任せて」というところはまさに権限委譲の領域になってくると思いますが、日頃からの相互理解がまずは大切です。
そもそも一対一で話すときにどのような話が出てくるかだと思います。なかなか信頼関係が築けないマネージャーに特徴的なのが、1on1ミーティングがはじまると業務進捗ミーティングになっていることです。まったくお互いのことを話し合う機会がありません。
私が過去受けた1on1ミーティングは、コーヒーを飲んだり社食へ移動したりしながら「最近どう?」という雑談から始まりました。そこから人生で何を大事にしているのかを話し合い、信頼関係を築いた上で適切な仕事を任せてもらっていました。
——「メンバー1人ひとりのワクワクとドキドキの体験を生み出す」のがマネージャーの仕事
橋本 氏: 私のマネージャーは日頃から、「マネジメントの仕事とは、メンバー1人ひとりのワクワクとドキドキの体験を生み出す面白い仕事を取ってくること」だとおっしゃっており、私もその考えを大事にしています。
ワクワクとドキドキとは何ですかと聞いたら「ワクワクはメンバー自身が持っている力を組織の中で100%、120%発揮でき、マネージャーから『あのときこういうふうに取り組んでくれたからプロジェクトがうまくいった。ありがとうね』と言われるような自分の存在価値や存在意義を感じること」と答えていました。
さらに「ドキドキはメンバー自身の力では達成できないかもしれないけれど、110%、120%の力と周りの人たちの力を借りることで、越えられなかった壁を越えて課題を成し遂げていく体験のこと」と答えてくれました。
このように、マネジメントは、メンバーに面白い仕事をいかに取ってこれるか、が重要だと思います。
私のマネージャーは、加えて「責任を取る」ことも大切にしていました。メンバーからすると、マネージャーに「俺、責任取らないよ」と言われると全力を出すことは難しいです。メンバーが安心して全力を出せる環境をいかに作るかが大事なことだと思います。
東: ワクワクとドキドキ、どちらか一方が多くなっても駄目なんでしょうね。マネージャーはワクワクとドキドキのバランスもしっかり見るのが大切ですね。
橋本 氏: そうですね。あとはどう伝えるかです。マネージャーから「目標設定考えてね」と言われても、メンバーのテンションは上がりにくいです。私のマネージャーは、「半年間でどのようなことを仕掛けようか」と聞いてくれました。それに答えると、頑張ったら仕事を持ってくるといってくれて、本当に持ってきてくれます。
——ワクワク、ドキドキする仕事はどうやって持ってくる?
東: ご質問をいただきました。ワクワク、ドキドキする仕事を取ってくるのにはスキルが必要だと思います。見つけるために、交渉力など、どういったスキルが大事ですか。
橋本 氏: まずメンバーとは信頼関係を日頃から結んでおきながら、メンバーがワクワク、ドキドキすることは何なのかきちんと把握することです。
もう1つは、メンバーの手柄を自分のものにしないことです。例えば経営会議でメンバーが作ってくれたスライド資料などは「実はうちのメンバーが作ったんです」というふうに一言添えます。社内の信頼のポイントを積み重ねるイメージですね。
東: なるほど。メンバーのブランディングをするのもマネージャーの役割ですね。
会社で実践できる修羅場演出のポイント
橋本 氏: 本当にマネージャーが仕事を持ってきたからには、メンバーはやるしかないよね、となります。ここは修羅場になりますけれど、いい修羅場です。
東: 修羅場の演出と呼ばれるものが入ってくると思いますが、一種のワクワクも生まれますよね。
——会社全体を俯瞰することでメンバーのチャンスを逃がさない
橋本 氏: 私は会社を見るときに点や線ではなく面で捉えるようにしていました。会社全体を俯瞰して見てみると、いろいろな課題が絶対どこかしらにあります。
そこにアンテナを立てて面として捉えながら、もう一方で自分のメンバーがどのような仕事をして、どのようなキャリアを積んでいきたいのかを話していました。そこがマッチングしたときに「よしきた。やります」と手を挙げます。
東: マネージャーが余白の時間を作ったときに、何をインプットすれば視座が上がるでしょうか。
橋本 氏: 自分たちは何者でどこに向かってどうありたいのかを考えることが大切です。ビジネス用語で言うとミッション・ビジョン・バリューは、会社だけの話ではありません。
個人、もしくは自分がマネジメントしている部署の存在価値や方向性など、思考を深める時間の中で振り返ることが大切です。どのような新しい価値を出せるだろうかと仕掛けてみることが求められます。ここは意識的にやらないと難しいかもしれません。
質疑応答
——新入社員だとまだ「どうありたいか」が定まっていない方が多い気がするのですが、見つけるためのサポートはどうされていますか。
橋本 氏: 新入社員や新卒社員に対して「働く上で大事にしている価値観」を聞いても、具体的には答えられないと思うので、ワクワクする瞬間や夢中になることを紐解いてあげるといいと思います。
メンバーが自分で気づけるようにマネージャーは気づきのポイントを多く用意してあげるといいのではないでしょうか。サポートという意味では焦らずに進めたほうがいいと思っております。
——「仕掛ける」というワードは、日頃から仕掛ける文化があることが前提だと思っています。まったく仕掛ける文化がないような、長い歴史のある企業はどうはじめていくべきでしょうか。
橋本 氏: もし日頃から仕掛ける文化がある場合、当たり前のことなので「仕掛ける」とはならないんですね。逆で、文化がない会社では仕掛けられます。
実際私も長い歴史のある企業で働いていた時は、自分の持ち場でどうしたら仕掛けられるのかを考えていました。上司に怒られることもありましたが、常に仕掛けていくのはやめなかったし、実際に実を結んだことがありました。
また、機会をうかがってみるのも一つの手かもしれません。社長が変わるタイミングなどで、はじめて自分たちの課題に向き合わなきゃいけないときが来ます。
少し厳しい言い方かもしれませんが、何かを仕掛けると怒られる文化しかない会社であれば、在籍する意味も含めてご自身も考えることは少し大事な要素なのかなと思います。
東: おそらくご質問いただいた方は、ご自身で修羅場に飛び込んでいくような背景にいらっしゃるんでしょうね。一歩勇気を出して踏み込んでいただけると、それはご自身の修羅場体験になると思います。
–ご登壇いただき、ありがとうございました。