同じようにも思えるワークエンゲージメントと従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントが、ワークエンゲージメントを包含する関係に両者はあります。
従業員を主体とした2つの概念は、数値化する上で対象とするものの多さに違いがあります。
以下にそれぞれの概要から、順を追って説明します。
ワークエンゲージメント概要
仕事に肯定的で積極的に取り組んでいるときの充実した心の状態がワークエンゲージメントです。
“バーンアウト(燃え尽き)”の対極の概念でもあります。
ワークエンゲージメントの高い従業員は、生き生きと仕事に取り組んでいるのがわかります。
仕事にやりがいや誇りを感じ、熱心に取り組んでいるため、自然とそう見えるのです。
ユトレヒト大学(オランダ)のウィルマー・B・シャウフェリ教授らは、2002年に尺度の1つでもあるワークエンゲージメントを確立しました。
日本では慶應義塾大学の島津明人(総合政策学部)教授の研究がしられている学術的な概念です。
次の3つの要素から成り立つ概念で、すべて高い次元でそろった心の状態がワークエンゲージメントです。
- 熱意⇒仕事の意義を理解し、誇りを持っていることから生じる仕事に関わろうとする意識の強さ
- 没頭⇒仕事への集中や没頭
- 活力⇒仕事中の熱量の大きさと心の回復力
一時的には3つともそろうときが、どなたにでもあるのではないでしょうか。
ワークエンゲージメントの状態にあるときには、基本的にすべてそろった状態が持続します。
従業員エンゲージメント概要
一方の従業員エンゲージメントは、学術的な概念ではありません。
米国の総合電機メーカー大手GE(ゼネラル・エレクトリック社)のジャック・ウェルチ元会長が、1990年ごろに出した「従業員エンゲージメントを優先するのが中長期的には重要」とする指示が、はじまりだとされています。
学術的に定義づけされていないため、あいまいに捉えられる場合もあります。
しかし、ワークエンゲージメントと同様に指標となるものがあり、数値化される場合もあるのです。
例えば、次の4つが指標とされています。
- 組織⇒経営陣・企業の風土・人材
- 将来への展望⇒戦略・企業の理念・成長性・ブランド力
- 待遇⇒給与や賞与・福利厚生
- 企業の活動⇒提供する商品やサービス・事業の内容・仕事の内容
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントのそれぞれで、指標となるものを比較してみてはいかがでしょう。
仕事に対する従業員の心の状態がワークエンゲージメントであるのに対して、従業員エンゲージメントでは仕事以外の組織内にあるものも対象としているのがわかるのではないでしょうか。
つまり、従業員エンゲージメントがワークエンゲージメントを内包しているのです。
また、ワークエンゲージメントで学術的な定義づけがなされている一方、従業員エンゲージメントでそれはありません。
ビジネスの世界で従業員エンゲージメントは、よく使われていることばです。
おのおのの違いをよく理解しておく必要があると考えていいでしょう。
ワークエンゲージメント詳細
仕事への熱意を表すワークエンゲージメントは、組織への愛着や仕事への満足などの観点も混在する従業員エンゲージメントよりシンプルです。
ワーカホリック(働きすぎの人)とも違います。
仕事に対してポジティブなワークエンゲージメントと比べて、ワーカホリックはネガティブな心の状態にあります。
ワークエンゲージメント向上で得られるメリット
厚生労働省が令和元年(2019年)9月27日に公表した労働経済白書“令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-”では、ワークエンゲージメントについて非常に詳しく書かれています。
定着率の増大・離職率の低下
白書の中で、入社して3年が経過した従業員の定着率や離職率は、ワークエンゲージメントのスコアと密接な関わりがあるとしています。
企業側としては定着率を上げ、離職率を下げたいところです。
従業員が働きがいをより感じるようになれば、いずれも達成の可能性が大きくなるとする指摘がなされています。
“働きがいのある状態”とは、“ワークエンゲージメントが高い従業員の状態”と白書ではしています。
参考:“第Ⅱ部第3章第1節”
労働生産性の改善や上昇
従業員1人の労働生産性と従業員1人1時間当たりの企業の労働生産性は、いずれも従業員の働きがいと正の相関関係が伺えると白書には書かれています。
働きがいが大きくなればいずれの生産性もアップするのです。
なお、労働生産性には物的労働生産性と付加価値労働生産性の2種類あります。
いずれの労働生産性も従業員1人当たりの労働生産性を表しますが、労働時間を加味する場合と加味しない場合、すなわち次のように(1)と(2)のケースがそれぞれあるのです。
物的生産性(1)=生産量÷労働者数
物的生産性(2)=生産量÷(労働者数×労働時間)
付加価値労働生産性(1)=付加価値額÷労働者数
付加価値労働生産性(2)=付加価値額÷(労働者数×労働時間)
付加価値とは文字通り、生産の過程で付加された価値です。
総生産額から原材料費などの投入物や減価償却費を差し引いたものを指しています。
チームの生産性アップには、次の記事も参考になります。
『チームの生産性が向上しない原因とは?リーダーの役割5つを解説』
より長い職業人生(キャリア)を望む従業員の増加
白書には、グラフが掲載されています。
そして、いずれの年齢や階級でも、ワークエンゲージメントスコアの高い従業員の方が低い従業員より、できるかぎり長い職業人生を望む傾向にあるのがグラフから読み取れるとしています。
ワークエンゲージメントを向上させる方法
ワークエンゲージメントを高めるためには、一般的に次の資源2つの充実が必要であるとされています。
仕事の資源
従業員に別の人物から与えられる刺激が、仕事の資源です。
具体的には、先輩や上司や後輩、社外でも顧客などからの刺激です。
刺激は次の2つの項目を促進・活性化します。
- 個人の成長や活動
- 目標の達成
具体的な方策は、以下の1から5です。
- 1on1などで、現状を正確に把握し、業務量も調整する
- 業務の効率化ツールを利用する
- 従業員の裁量にある程度任せる
- 親の介護・育児・本人の治療などを仕事と両立できる制度を構築する
- 従業員と企業、双方にとって建設的なコーチングを実施する
仕事の資源の充実で、ストレスの低下や動機づけの向上が期待できます。
個人の資源
従業員の内面に本来ある意欲やモチベーションを向上させる力が、個人の資源です。
目標の達成に必要な力を持っていると自身を信じられるいわば楽観性で、困難な状況を切り抜けられる力などが該当します。
個人の資源は仕事を成功させた経験値で、さらに増強します。
よって、適切な仕事の資源に恵まれる必要があるのです。
どういった仕事の資源が適切なのか、マネージャーはよく考えるのがいいでしょう。
従業員満足度との違い
ワークエンゲージメントと並び、重要な指標として注目されている従業員満足度(ES)もワークエンゲージメントとは別の概念です。
ワークエンゲージメントで、従業員の対象となったのは仕事のみでした。
ところが、従業員満足度でも従業員エンゲージメントと同様に、労働条件や労働環境は対象物に含まれるのです。
働く企業そのものには満足しているものの、仕事に対しての熱意はそれほどでもないといった状況は、いくらでもあるのではないでしょうか。
この場合、従業員満足度スコアは高く、ワークエンゲージメントスコアは低いのです。
ワークエンゲージメントの測り方
ワークエンゲージメントを測る際に広く使われているのが、提唱したシャウフェリらの理論に基づいた“ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWES)”です。
ワークエンゲージメントの3要素(熱意・没頭・活力)についての質問に、島津氏の作成した日本語版では0~6点の7段階で答えてもらいます。
質問数を3つや9つに少なくした簡易版もあります。
点数の合計値が大きいほど、従業員のワークエンゲージメントは高いのです。
従業員エンゲージメント詳細
従業員エンゲージメントは働きがいとも違います。
従業員1人ひとりが与えられた仕事に誇りや価値を感じ、自発性が高まっている状態を、働きがいがある状態といいます。
従業員エンゲージメント向上にまい進した結果、働きがいが獲得されます。
以下、従業員エンゲージメントの詳細について解説します。
従業員エンゲージメント向上で得られるメリット
従業員エンゲージメントを向上させれば、企業にもプラスになります。
従業員の定着率の向上
従業員エンゲージメントの高い従業員は、仕事そのものへのやりがいを感じている以外にも、複数の価値を見いだしています。
例えば、職場内での人間関係や企業ビジョンなどです。
職場や企業から多くの価値を見いだせていれば、定着率が高くなるのも当然でしょう。
定着率が向上すれば新たに採用する人材の数を抑制でき、新人への教育費なども抑えられます。
所属する企業やほかの従業員への信頼感アップ
信頼感がアップすれば、チームワークが向上したり、職場の雰囲気が明るくなったりもします。
結果、企業の業績アップやさらなる定着率の向上も期待できます。
労働生産性の向上
世論調査や人材コンサルティングを業務とするアメリカのギャラップ(GALLUP)社の調査“State of the Global Workplace”は、従業員エンゲージメントの高い組織の生産性は低い組織より17%高いとしています。
従業員エンゲージメントの向上は、仕事で感じるストレスの減少につながります。
ヘルシーカンパニー思想(1980年代アメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが提唱)でも、健康な従業員こそが収益性の高い企業をつくるとされているのです。
State of the Global Workplaceは従業員エンゲージメントの高い組織の収益性は、低い組織より21%高いとも指摘しています。
従業員エンゲージメントを向上させる方法
ワークエンゲージメントより多くのものを対象とするのが、従業員エンゲージメントです。
スコアが向上すれば、企業への大きなプラス効果が期待できます。
福利厚生の拡充
従業員の健康の維持・増進や生活を充実させる上で大きな役割を果たす福利厚生を、今以上に拡充させるのは効果的です。
気遣っているのが、従業員に伝わるからです。
適正な評価
適正な評価の方法は、1つのみではありません。
企業の状況に合わせた方法で、評価するのがいいでしょう。
ただし、評価の基準は明確にし、従業員たちに周知、納得を得ておくことが必要です。
この際に1on1ミーティングが有効です。
1on1については、次の記事で本質について解説がなされています。
『【第1回目】revii事業責任者が語る1on1ミーティングの本質と実施目的とは』
企業の理念や展望への理解
組織はチームプレイで動きます。
従業員全員が同じ方向で活動すると、より大きな収益を期待できます。
毎朝欠かさず理念の唱和などをする企業があるのはそのためです。
また、企業の業績アップなどで、理念や展望を理解した結果の高い効果が示されると、従業員は企業との一体感を抱きます。
結果、今まで以上の企業に対する貢献心を持つことが期待されるのです。
さまざまな働き方の認可
従業員を信頼し、副業や在宅での勤務などを認めれば、企業への信頼といった形で返ってきます。
安心して自分らしく行動・発言できる環境
心理学の用語“心理的安全性”が確保されている企業では、労働生産性も向上します。
ここのところ、多くの企業から注目されています。
まとめ 2つのエンゲージメント向上のために従業員をサポートしよう
収益性の向上を期待できるワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントは、企業側のサポートにより向上が見込めます。
反対にサポートがない場合には、いくら優秀な従業員であっても向上させるのが難しいのが実際です。
そのためにも、意識してサポートを提供するのがいいでしょう。